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第十六章・3
「私にも、来てたんだよ」
そう言う衛のハガキには、こうあった。
『お世話になります。いましばらく、お願いいたします』
「お父さんは、お元気で頑張っているんだね」
「父さん……!」
見る見るうちに、早紀の瞳に涙が溢れてきた。
「大丈夫か、早紀」
「うん、平気。これは、嬉し涙だから」
父さん、良かった。
返事は書けないけど、僕も元気だよ!
早紀は、大切に年賀状を胸に当てた。
衛は、そんな早紀に複雑な思いを抱いた。
(お父さんの言うように、彼を預かってはいるが)
だが、やはり親子そろって暮らした方が、早紀のためになるのでは。
早紀の父が、日の当たる場所に出てこられるのは、いつになるのか解らない。
(私が、お父さんの力になれれば、一番良いのだろうが)
しかしそれは、早紀との別れを意味する。
早紀の幸せを思って、身を引くべきなのだろうか。
答えの出せないまま、衛はただコーヒーを淹れた。
ひどく苦い、コーヒーだった。
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