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第十六章・5

「ぅあ。早紀、ちょっと」 「逃がさないからね」  早紀が、積極的に舌を絡ませてくる。 「ホントに、もう。少し、待ちなさい」 「何でぇ? 早くやろうよぅ」  衛は早紀の下から這い出すと、横に並んで寝た。 「その、何だ。少し話を」 「エッチの前に?」  衛は改まった口調で、早紀に向き合った。 「縁あって、今私は早紀とこうして暮らしているんだけれど」 「うん」 「今年も、一緒に過ごしてくれるか? 一年間、傍にいてくれるか?」  何をいまさら、と早紀はまず思った。 (僕が他に行けるところは、無いのに)  でも……。  おそらく、衛が言っているのは、そういうことではない気がした。  ただ、一緒に。  傍にいて欲しい。  何気ない日常を大切に、共に暮らして欲しい。  衛の伝えたいことは、早紀に伝わっていた。

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