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第十六章・8

(あぁ、体の奥、ひくひくしてるぅ……)  今また苛められれば、すぐに射精してしまうだろう。  だが衛は、そこまで意地悪ではなかった。  そっと早紀の体内から去り、優しく汚れを拭きとった。  体を拭かれ、まだ弾む息を整えながら、早紀は声を押し出した。 「どうだった? 今年初めてのエッチは」 「最高だ。良い一年に、なりそうだ」 「僕も、だよ」  衛が、腕枕をしてくれる。  早紀はその腕に頬を擦り付け、笑顔で言った。 「衛さんとのエッチは、いつでも最高だけど」  衛は、ただ微笑んだだけで返事はしなかった。 (考えるのは、よそう。この一年を、ただ悔いの無いように過ごそう)  日常というささやかな幸せが、まるで儚く崩れていくことは、何度でも経験済みだ。 「衛さん、どうしたの?」 「ん? いや。早紀、今年もよろしく」 「うん。今年もよろしく」  温かな毛布にくるまれて、二人で抱き合い眠った。  今は、幸せなんだ。  それだけは、確か。  ただ衛は、ここに早紀の父が居れば。  そうすれば、彼はもっと幸せなのだという事実から目を逸らすことができなかった。

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