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第十七章・4

 その晩、衛は早紀がバスを使っている間を狙って電話を掛けた。  相手は、もう3年近く連絡を絶っている、実家の父親だった。 『ご無沙汰してます』 『衛! 元気なんだな? カフェは、繁盛しているのか?』 『おかげさまで、何とか』 『全く、弓月家の人間ともあろうものが!』  衛は、すでに嫌な気分になっていた。  窮屈な旧家から飛び出して、バリスタの資格を取った。  このままでは、家同士の利益のためだけに結婚させられると気づいて、逃げ出した。  頑固で頭の固い我が父は、どうやらちっとも変わっていないらしい。  しかし、そこは早紀のためだ。  ぐっとこらえて、話を続けた。 『実は、お父様に相談があります』 『何だ? 何でも言いなさい』 『少々、お金をいただきたいのです』 『わけを、訊こうか』  衛は一つ息をつくと、父に対して語り始めた。

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