119 / 145

第十七章・5

「実は知人が、借金で困っています。返せなければ、その息子さんが風俗に売られます」  衛は、早紀とその父の話を打ち明けた。 『つまり衛は。お前はその借金の肩代わりをしたい、と言うんだな?』 『端的に言えば、そうです』 『いいだろう。だが、一つだけ条件がある』  来たな、と衛は眉根を寄せた。  父の交換条件など、聞かなくても解っている。  解ったうえで、電話に踏み切ったのではあるが。 (早紀のためだ)  早紀のためなら、衛は全てを犠牲にする覚悟だった。 『弓月の家に、帰って来なさい』 『やはり、そう来ましたか』 『3年待った。もう、いいだろう。いい加減、落ち着くんだ』 『……解りました。また、連絡します』  通話を終え、衛は天井を仰いで息をついた。 「さよなら、私の自由」  さよなら、カフェ・メビウス。  そして、愛しい早紀。 「衛さん、お風呂あがったよ~」 「ああ、今行く」  何事もなかったかのように、衛は早紀に接していた。

ともだちにシェアしよう!