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第十七章・5
「実は知人が、借金で困っています。返せなければ、その息子さんが風俗に売られます」
衛は、早紀とその父の話を打ち明けた。
『つまり衛は。お前はその借金の肩代わりをしたい、と言うんだな?』
『端的に言えば、そうです』
『いいだろう。だが、一つだけ条件がある』
来たな、と衛は眉根を寄せた。
父の交換条件など、聞かなくても解っている。
解ったうえで、電話に踏み切ったのではあるが。
(早紀のためだ)
早紀のためなら、衛は全てを犠牲にする覚悟だった。
『弓月の家に、帰って来なさい』
『やはり、そう来ましたか』
『3年待った。もう、いいだろう。いい加減、落ち着くんだ』
『……解りました。また、連絡します』
通話を終え、衛は天井を仰いで息をついた。
「さよなら、私の自由」
さよなら、カフェ・メビウス。
そして、愛しい早紀。
「衛さん、お風呂あがったよ~」
「ああ、今行く」
何事もなかったかのように、衛は早紀に接していた。
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