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第十八章・2
「早紀、この看板を外に出してくれ」
「え? 臨時休業?」
どうしてだろう。
バレンタインデーに、お客様におまけでコーヒーに添えるチョコクッキーは、三日前から出している。
しかし、今日もたくさん焼く気でいたのだ。
早紀は、疑問と共に不満も覚えた。
「せっかく、クッキー焼くのが巧くなったのに!」
「今日は、貸し切りなんだよ」
だから、クッキーは焼いてくれ。
そんな衛に、早紀は唇を尖らせた。
貸し切りなんて、聞いてないのに。
ぶつぶつ言いながら、早紀はクッキーを焼いた。
やがてオーブンから香ばしい匂いが漂い、店内は温かな空気に包まれた。
そんな中に、貸し切りの客が現れた。
「こんにちは」
「お待ちしておりましたよ」
その声に、早紀は首を跳ね上げた。
この声は。
この、聞きなれた懐かしい声は!
「父さん!?」
「早紀、すまなかったな」
早紀はカウンターから飛び出して、父の胸に飛び込んだ。
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