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第十八章・3
「父さん……! ホントに、父さんだ……!」
父にしがみついて涙をこぼす早紀の耳に、衛の優しい声が響いた。
「早紀。お父さんが、私からのバレンタイン・プレゼントだよ」
え?
どういうこと?
「弓月さんは、父さんの恩人だ。借金を、肩代わりしてくださったんだよ」
「衛さん!?」
何?
衛さん、何でそんなにお金持ってるの?
「黙っていてすまなかったな。私は旧家出身でね。資産もそれなりにあるんだ」
「ユヅキホールディングスの、御子息なんだよ」
嘘。
衛さんが!?
衛は、驚く早紀に頭を下げた。
「もっと早くに、こうしていれば良かったんだ。すまなかった」
早紀は、ただ首を横に振った。
衛さん。
大好きな、衛さん。
だけど今、何だか少し遠い所に立ってるような気がする。
このまま、遠くに行っちゃいそうな顔、してる。
そんな早紀に、衛は妙に明るく声をかけた。
「さあ、お父さんにコーヒーを淹れてあげてくれ。早紀の腕前を、見せてあげてくれ」
その提案に、早紀はこわばった頬を、緩めた。
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