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第十八章・4

「ここに戻られた時に、早紀くんの淹れたコーヒーを御馳走する約束でしたからね」 「早紀も立派に、一人前にしていただいて。ありがとうございます」  そこへ、ドアベルが鳴った。  秀一が、やって来たのだ。 「マスター、臨時休業って……。え? 早紀くん?」  カウンター内には早紀がいて、客席に衛がいる。  いつもと違う雰囲気に、秀一はとまどった。 「秀一さん、紹介するよ。僕の、父さん!」  明るい早紀の声に続いて、衛の前に掛けていた男性が頭を下げた。 「いつも、早紀がお世話になっております」 「あ、いいえ。こちらこそ!」  慌てて頭をぴょこんと下げた後、秀一は早紀を見た。  彼は、淹れたてのコーヒーをトレイに乗せて、父に運んでいた。 「父さん、僕のコーヒー試してみて」 「ありがとう、早紀」  一口飲んで、紀明は目頭を押さえた。  涙が湧いてきて、仕方がないのだ。 「こうして、本当に早紀の淹れたコーヒーが飲める日が来るなんて……」  衛は、そんな紀明を見守っていたが、やがて二つ目の言葉を投げた。

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