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第十八章・7

「俺、早紀くんが好きなんだ」 「秀一さん……。でも、僕には……」 「解ってる。マスターが、衛さんという恋人が、早紀くんにはいるよね」  でも、と秀一は微笑んだ。  腹の据わった、落ちついた笑顔だった。 「この好きだ、って気持ちを伝えないでいる方が、俺には辛いんだ」  早紀は、うろたえた。  どうしよう。 (今ここで、僕が秀一さんを拒んだら)  そうしたら、彼は深く傷つくだろう。  なにせ、クリスマスに失恋したばかりなのだから。  返事を選んでいると、秀一が謝ってきた。 「ごめん、困らせたよね。でも、付き合って欲しい、って言ってるわけじゃないから」 「えっ?」 「一方的な押し付けで、ホントにごめん。俺はただ、早紀くんが好きなんだ。それを伝えたかった」 「ぼ、僕も、秀一さんのことが好きだよ。でもそれは、お兄さんみたいだな、って思ってて、それで……」 「ありがとう。それが聞けただけでも、良かった」 「秀一さん」  秀一がメビウスのバイトを辞めるまで、あと半月ある。  早紀は、その期間にどう彼と向き合っていいのか、解らなくなってしまった。  しかしそれには、秀一自身から答えが出された。 「変に意識しないで、早紀くんらしくしててね。これからも、今まで通り仲良くしてくれたら、嬉しいよ」 「うん……」  臨時休業ならば、と秀一は話を終えるとメビウスから出て行った。 「どうしよう、僕。衛さん、僕どうしたらいいんだろ」  衛からの、プレゼント。  秀一からの、プレゼント。  二つの贈り物に、早紀の未来は大きく変動し始めていた。

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