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第十九章 切り開く未来

 秀一がメビウスから去った後、ほどなくして衛と紀明は休憩室から出てきた。 「父さん、衛さん」  ああ、衛さん。  どうしよう、僕。  どうしよう。 「早紀、心配かけたな」  でも、もう大丈夫だ。  不安げな早紀をよそに、紀明は良い笑顔だった。  彼は、衛との間で話し合ったことを、全て息子に打ち明けた。  借金は、利息無しで無理なく返済していけること。  ユヅキホールディングスの会社の一つに、紀明のためのポストが用意してあること。  そして。 「家も! あの家も、弓月さんが買い取ってくれたんだ!」  また、あの家で暮らせるんだよ。  家族一緒に!  早紀の瞳から、涙が一筋流れた。  それは、待ちに待った瞬間だったはず。  だが、その涙がやけにしょっぱいのはなぜだろう。 「早紀。今日から、お父さんと一緒に暮らしなさい」 「衛さん」 「荷物を、まとめに行こう」  衛は、そして覚悟していた三つ目の言葉を投げた。

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