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第十九章・4
「衛さんの、バカ」
何から言おうかと考え抜いて出した発言が、これだった。
お父さんが、帰ってきて。
秀一さんから、告白されて。
二月いっぱいで、メビウスが閉店で。
頭はぱんぱんに充血していたが、まずはバカ、だった。
「一人で勝手に、何でも決めて!」
「悪かったが、これは早紀に相談できることじゃなかったんだ」
「衛さん、実家に帰ってどうするの?」
「弓月の会社に就職して、そして」
そして。
「親の決めた誰かと、結婚する」
「イヤだ……ッ!」
ああ。
聞きたくなかった、そんな言葉。
うすうす気づいていた、衛の未来。
それを本人の口から聞いて、早紀は絶望した。
「衛さん、愛してる、って。僕のこと、愛して、る、って、言っ……」
「すまない、早紀」
衛は、早紀をそっと抱いた。
その胸で、早紀は泣いた。
いくらでも湧いてくる、涙。
「嘘だったの? あれは、全部、嘘……」
「嘘じゃない」
衛は早紀の頬の涙を、指腹でぬぐった。
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