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第十九章・6
「ん?」
衛はベッドで目を覚まして、隣を探った。
早紀が、いない。
泣き疲れて眠ってしまった彼を運んで、その後に自分も休んだのだ。
その、隣に。
「お父さんのところに、帰ったのかな」
昨日は、我ながらひどいことを言ってしまった。
もう、愛想をつかされてもしかたがない、とさえ思っていた。
「おはよう、衛さん!」
「早紀」
だが、寝室へ入って来たのは、エプロン姿の早紀だった。
「早く起きないと、メビウスのオープンに間に合わないよ?」
「あ、ああ。そうだな」
身支度を済ませてキッチンへ行くと、すでに朝食の準備ができていた。
衛は、コーヒーを淹れる早紀を、そっとうかがった。
笑顔で、鼻歌まで歌っている。
「早紀。昨日は、すまなかった」
「もう、大丈夫。泣いたら、スッキリしちゃった」
「強くなったな、早紀」
「いつまでも泣いてても、仕方がないもんね」
僕は、前を向くよ。
そして、行動する。
「僕は、自分の力で未来を切り開くんだ」
頼もしい、早紀の言葉だった。
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