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第十九章・7

「秀一さん、これ」  早紀は、バレンタインデーのプレゼントにもらったイヤーカフを、秀一に返していた。 「ありがとう。気持ちはとっても嬉しいけど、やっぱり受け取れないよ」 「そう来るだろうと、思ったよ」 「僕、衛さんのことが、好きだから」 「うん。それでいいと思う。それでこそ、早紀くんだと思う」  秀一は、うなずいた。  フラれたな。  ものの見事に。  だが、この結末も想定済みだ。  悲しかったが、傷つきはしなかった。  絶望とも、無縁だった。 「やっぱり、好きだ、って告白して良かった」 「ごめんね」 「いいんだ。早紀くんは、俺に勇気をくれたから」  このイヤーカフは、大切にしまっておこう。  いつか、どこかで。  誰か、早紀くんより好きな人が現れた時のために。  秀一もまた、強い心を育んでいた。

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