141 / 145

第ニ十章・5

 2月末。  メビウスを閉店してしまう前に一度、衛は父に会う約束を交わした。  そして、ついにその日がやって来たのだ。 「自分の方から会いたい、など。衛の奴も、殊勝になったな」  いつも反発していた息子を思うと、少々物足りなく感じてしまうくらいだ。  衛の父は、彼が到着する時刻を今か今かと待っていた。  そこへ、ドアをノックする音が。 「旦那様。衛さまが、お戻りになられました」 「来たか!」  書斎に入って来た執事を下がらせ、衛の父は彼がこの部屋へ来るのを、胸を躍らせながら待った。  本当は、ポーチまで。  屋敷の外にまで出迎えに行きたかったが、それをこらえて自室で待っていたのだ。 「父親の威厳を、見せておかないとな」  しかしながら、3年ぶりの我が子だ。  ひとりでに頬が緩む。  ソワソワしていると、やがて再びドアがノックされた。 「お父様、衛です。ただいま帰りました」 「む、そうか。入りなさい」  一生懸命、抑えた声色で彼は息子を迎え入れた。

ともだちにシェアしよう!