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第2話
「あら、1人なの、ウィニー?」
「ウィニー、飲まないの?楽しまなきゃ損だよ?」
ウィニーというのは、彼の名前である「文維(ウェンウェイ)」が発音しにくいと、アメリカ留学中に学友達が付けたニックネームだった。
それが可愛らしくて、クールな文維とはアンバランスだと、面白がった上海の仲間内でもすっかり定着してしまった。
「今夜の主役はどちら?」
酔っ払いたちに囲まれるのに飽きた文維は、この派手な誕生日パーティーの招待者である、銀行家の娘を探した。
「さっきまで、ドイツ人の友達って人と、英語で話していたわ。いけ好かない男だけど、とってもセクシーなの」
「イタリア人の男と、キスしてたわよ。すっごく熱烈なやつ」
「俺が見た時は、ロシアの金髪美人2人とセクシーなダンスをしていたよ。羨ましいよな」
当てにならない情報を集めながら、文維は人を掻き分けるようにしてパーティー会場を移動していた。
本来、このようなパーティーには参加しない文維だが、上客を呼ぶには上客とのコネが物を言う。
今夜、誕生日を迎えた女性は、広州生まれの生粋の中国人だが、カナダ国籍を持ち、アメリカの社交界にも出入りし、ロシアの富豪にも友人が多い。彼女の紹介で、上海セレブの患者が確保できたと言っても過言ではない。
「?」
右手の奥に、目的の彼女の姿を見たような気がした文維だが、左の方から上がった歓声が気になって振り返った。
「お見事だ!さあ、もう一杯!」
「いいぞ、いいぞ!」
ただの酔客同士の飲み比べかと思い、すぐに興味を失った文維だったが、周囲の野次馬たちの隙間から見えた人物にハッとした。
ソファに崩れるようにグッタリと凭れ、卑猥な目つきの男たちに触れられている美青年の横顔に、文維は覚えがあった。
「本当に綺麗な顔ね~。まるで絵画から抜け出てきたみたいじゃない?」
「綺麗なだけじゃなくて、名門出身の本物の貴公子だぜ。成金だらけの今では、骨董的価値だ」
「それを、あんな男たちに良いようにされて…。そういうのがお好みの貴公子なの?」
人だかりから漏れ聞こえる冷やかしの言葉に、文維の柔和な表情が、スッと厳しくなった。
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