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第5話
長身の文維ほどではないものの、そこそこの上背はある煜瑾だが、ぐったりした体を支えるように歩く文維には、少女のように軽い体に思えた。精神科医とは言え、医師として、煜瑾がどこか健康を害しているのではないかと心配になる。
エミリーがパーティー用に貸切っている、このバーのバックヤードに、名ばかりの医務室はあった。
店のスタッフの手を借りて、頼りない診察台に煜瑾を寝かせる。すると先ほどから煜瑾の呼吸が荒く、激しくなっていることに文維は気付いた。
文維はスタッフにミネラルウォーターを頼むと、自身は煜瑾の手を握って付き添った。
「分かりますか、唐煜瑾。私です、包文維ですよ。もう恐い事はありませんからね。落ち着いて」
優しく柔らかな声音で、文維は煜瑾の耳元で囁くが、引き続き煜瑾の息は荒い。
「はあ、はあ、はあ…」
声も大きくなり、文維は危険を感じ、脈拍を取り始めた。
店員が高級な輸入品のミネラルウォーターの瓶を持って来ると、心配そうに煜瑾を覗き込んだ。息遣いがただならぬことを、さすがに感じ取ったようだ。
「私は医者です。心配はいりません。診察をするので、出て行ってもらえますか?」
お得意の柔和な笑顔でそう言うと、安心したのか、頷きながら店員は出て行った。
(しまった…ボトルの蓋くらい開けてもらうべきだった)
店員が出て行ったのを確認してから、文維は煜瑾の手を離し、ミネラルウォーターが入った瓶の蓋を開けようとした。
「ひぃっ、ひいっ!」
煜瑾の呼吸が、恐怖のためか引きつったものに変わった。
(やはり、パニック発作か…)
自分の予想が当たって欲しくなかった文維は、その眉を寄せる。だが、煜瑾は苦しそうにギュッと目を閉じ、過呼吸を起こしていた。
「さあ、水です。飲みなさい、煜瑾」
瓶の口を近づけようとするが、煜瑾は全身を使って呼吸をしているように動いて、文維も巧 く飲ませることが出来ない。
(仕方ない…)
文維は自分で水を一口含むと、そのまま青ざめた煜瑾の唇に自分の唇を重ねた。
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