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第15話
「本当?本当ですか?私がいつも小敏のこと考えているって、分かってくれているんですか?」
見たことも無いほど真剣な目をして、玄紀 は小敏 を見つめるが、小敏はそれを受け流すように微笑むばかりだ。
「ねえ、小敏」
堪らず、玄紀は手を伸ばし、小敏に触れようとした。
それを小敏は機敏にすり抜け、立ち上がった。
「もう遅いから、帰ったほうがいいよ。玄紀も疲れているだろう?」
そして小敏は、テーブル上にあった2個のグラスを手に取った。
「送らないよ」
そう言って、小敏は立ったまま、自分のグラスに残っていた林檎ジュースを飲んだ。
玄紀はその姿を見ながら、どうして小敏と間接キスをするチャンスだった林檎ジュースを、飲んでおかなかったのだろうと、後悔をしていた。
素知らぬ顔のままキッチンに向かい、小敏は背を向けてグラスを洗い始めた。
まるで卑しい下心を抱く自分を拒絶するかのような小敏の背中を、暗く切ない気持ちで玄紀は見つめた。
この細い肩を、小さな背中を、どれだけの男たちが抱き留めてきたのだろう。
その中には玄紀もよく知る、高校時代の先輩・包文維 もいる。
2人がオープンに付き合い出した時は、少なからずショックを受けた玄紀だったが、それでも相手が包文維だ、ということで、諦めもついた。誰よりも羽小敏の傍に居て、誰よりも羽小敏を理解している、Mr.パーフェクトのような包文維が相手であれば、玄紀も小敏を諦めることができた。
けれど、どうだ。
文維が医学部を卒業するのを待たずに、小敏は日本に私費留学した。それには、人民解放軍の幹部である父親の意向があったと言われてはいるが、それでも小敏は、恋人である文維と引き離されることに、さして痛みを感じる様子でもなく明るく日本へと旅立って行った。
そしてその後、文維もアメリカに留学してしまい、玄紀自身も大連の名門チームの契約が決まり、上海を離れた。
その、4年後。
日本から帰って来た小敏は、文維の事を忘れたように、次々と相手を変えては、浮名を流し続けた。その派手な交際は、上海の友人たちやファンからも聞かされた。
「申選手のご友人って、実はふしだらなんですね」
そんな噂に、耳を貸すつもりも無かった玄紀だが、他人のSNSなどで、玄紀の見知らぬ男に肩を抱かれて、楽しそうに写真に納まっている小敏の姿を、繰り返し見かけるうちに玄紀の中に、言い知れぬ怒りが湧いた。
もちろん、それらの写真の男たち全員と、小敏が関係を持ったとは限らない。けれど、1人の相手に決められずに、まるでさすらうように次々と相手を替える小敏が、玄紀には可哀想でならない。
大事な小敏をこんな風にしたのは、包文維があっさりと手放したからだと、玄紀はいつしか文維を憎むようになっていた。
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