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第21話

「はい、どうぞ」  文維(ぶんい)が差し出したロイヤルコペンハーゲンのティーカップには、やはりアールグレイのミルクティーが注がれていた。 「お砂糖はいらないんだったね」 「え?」  煜瑾(いくきん)は驚いてカップの乗ったソーサーを受け取りながら、文維の顔を見上げた。 「覚えているよ。煜瑾は、アールグレイのミルクティーが好きで、お砂糖は無し。代わりに甘いものが欲しいんだよね」  そう言って文維は握った手を煜瑾の前に差し出し、ゆっくりと開いた。 「わあ~」  そこには、煜瑾の大好きなキャラメル味のキャンディが2個あった。  この、「アルプスキャンディ」のキャラメル味が、煜瑾は好きだった。外は普通のカリッとしたキャラメル味のキャンディだが、中にバニラ味のクリームが入っているのだ。  羽小敏との思い出の「大白兎(ホワイト・ラビット)」のソフトなミルクキャンディも好きだが、一番好きなのはこの「アルプスキャンディ」だった。  高校時代、お菓子の持ち込みは校則で禁止にはなっていたが、育ち盛りの少年たちの食欲を抑えられるはずが無かった。実質、キャンディやガム程度のお菓子であれば、授業中でない限りは見逃されることが多かった。  なので、煜瑾も小敏の真似をして、コッソリ持ち込んでいたのが、このキャンディだ。 いつも一緒に遊んだ小敏や文維、1つ年下の申玄紀の分も持参しては、それぞれ持ち寄ったお菓子を交換したりもした。  高校時代の、そんな昔の些細なことを文維が覚えていてくれたことを、煜瑾は胸がギュッと締め付けられるほど嬉しかった。 「さあ、今日は初めての日だから、この場所に慣れるだけのつもりで、お茶を飲んでリラックスしてくれたらいいですよ」  自分の手の中の、個包装のキャンディを1つ取った煜瑾に、文維は親切そうに頷いて、残ったもう1つを戻し、さっと包装を破って、キャラメル色の小さな丸いキャンディを、ポイッと自身の口に放り込んだ。  それを見て、煜瑾はハッとする。 「文維!」  その顔色に察したのか、文維も困ったように笑った。 「文維は…、甘いキャンディが嫌いでしたよね?」  心配そうに煜瑾が声を掛けると、文維は苦笑しながら自分用の安楽椅子に座り、口直しをするように、ストレートのアールグレイ・ティーを口にした。 「相変わらず、歯が浮くように甘いですね」  高校時代、甘いものが苦手だと言う文維を、煜瑾はそれだけで大人っぽいと思い、憧れた。  そんな文維が本当に大人になって、当然今でも甘いものが苦手だろうに、自分に付き合ってキャンディを食べてくれたのが嬉しくて、煜瑾はキュンと胸が高鳴ってしまった。 「どうしました?何か、気に入らないことでも?」  胸がドキドキして俯いてしまった煜瑾に、気分でも悪いのかと心配した文維が安楽椅子から身を乗り出した。

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