23 / 201
第23話
自分の腕の中で身を硬くする煜瑾 に、文維 も考えを巡らせていた。
恐らく、煜瑾は性的なトラウマを抱えている。幼少期から、人々に注目されて来たこの美貌だ。どこかの時点で性的虐待を受けたのかもしれない。
思い返せば、高校時代から、対人関係に消極的で警戒心の強い子ではあったが、こんな風に他人との接触に神経質なタイプでは無かった、と文維は記憶している。
しかし、先日のパーティー会場で見知らぬ男にイタズラされた時に見せた、大げさすぎるほどの必死の形相や、今、こうやって文維の近くにいることで、これほどに緊張するということには意味があると、精神科医としては判断する。
だが、ほんの少し、今の状況には文維は心当たりがあった。
高校時代、従弟 の羽小敏 が友人だとして唐煜瑾 を紹介して来た時は驚いた。あの名門の唐家のお坊ちゃまが、この無邪気で能天気な従弟を友人に選ぼうとは予想もしていなかったからだ。
初めて会った時から、キレイな子だとは思っていた。けれど、その時すでに文維は小敏に対して特別な感情を抱いていたし、小敏にもその気持ちを受け入れる準備が出来つつあった。
しかし、世間知らずで素直な煜瑾が、時々思い詰めたような目で自分の姿を追っていることに文維は気付いていた。
こんな風な視線を向けられることに、慣れていた文維ではあったけれど、相手が唐家の「孤高の美少年」となると、さすがに意識せざるを得なかった。
だが、元来、内気な性格であった上に、小敏との関係にも気づいていたのかもしれない。煜瑾は、焦がれるような視線を送りつつも、文維に何も告げようとはしてこなかった。
あれは、おそらくは、煜瑾の幼く、淡い初恋であったのではないか、と、まるで他人事のように文維は分析する。
初恋の相手に再会し、こんな風に近くに触れあって、初心 な煜瑾が緊張するのも無理はないと思う。
(可愛いな…)
いつもとは、ほんの少し違う感想を抱いて、文維は煜瑾の指先に集中した。
「火傷 は大したことは無いようですね。赤味も引いたし。水から出たら、少しひりつくかもしれません。念のためにクリームを塗っておきましょうね」
煜瑾を怖がらせることの無いように、文維は穏便に言って、ゆっくりと水道の水を止め、横に積んである清潔なタオルで、煜瑾の濡れて冷たくなった手を包み込んだ。
「痛みますか?」
心配そうに聞く文維に、ほんのりと頬を染めたままの煜瑾が俯いたまま首を横に振った。
ともだちにシェアしよう!