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第28話
「うわ~、まさかこんな所で煜瑾 に会えるなんて、嬉しいなあ」
「私たちも驚きましたよ、小敏 。こんなところでどうしたのですか?」
にこやかに小敏と文維 は話し始めるが、煜瑾だけは戸惑った様子で声も出ない。
「ボクはねえ、そこのホテルで打ち合わせだったんだ」
「ああ、また新作が出るのですね」
「うん。あ、この前出版されたの、送ったけど読んでくれた?」
屈託なく話す小敏だが、煜瑾は複雑だった。
今、煜瑾が想いを寄せる文維と、いかにも親しげに、楽しそうに話している羽小敏は、文維の別れた恋人だ。
それ以前に、煜瑾の同級生で友達が少ない煜瑾にとって、数少ない親友だという事実もあるのだが、やはり今は、「親友」よりも好きな人の「元・恋人」という立場が気になる煜瑾だった。
「私と煜瑾は今からランチに行くのですが、小敏も一緒にいかがですか?」
「いいの?特に煜瑾とは食事どころか、会うのだって久しぶりだよね。元気だった?」
相変わらず明るく元気な小敏のペースに巻き込まれ、つい煜瑾も笑顔で頷いていた。
「本当に?」
ふいに小敏の顔が、煜瑾の目の前に迫った。あまりの近さに煜瑾は息も出来ずに固まってしまう。
「え?な、何?何ですか、小敏?」
「ん~?元気って感じじゃないよね?」
訝 るような羽小敏をソッと煜瑾は押し返した。
「そんなこと、ありません」
「最後に会ったのって、ボクの処女作の出版記念パーティーじゃなかった?」
よく言えば無邪気で、素直。人によっては幼稚で厚かましいとも取れる小敏らしい態度で、戸惑う煜瑾に迫るのが、横で見ている文維には懐かしく、面白かった。
文維との今の関係で、煜瑾が小敏にどう対処するのかが興味深い。
「そうかもしれません」
「じゃあ、2年も会って無かったってことだよ?あれから煜瑾って、絶対に痩せたよね。顔色も良くないし。だから文維と一緒なの?」
「そこまでです、羽小敏」
さすがに、主治医と患者の関係を暴かれそうになり、文維は小敏を制止した。
「え?」
「いくらお前でも、唐煜瑾にもプライバシーがあります。友人なら慮 っておあげなさい」
いつも通りに兄代わりの包文維に注意され、小敏はハッと気づいた。
「ゴメンね。ボク、気になったことは何でも聞いてしまうから…」
「いえ。心配してくれているのは分かりますから」
こちらも相変わらず、育ちの良い、人を疑わないような笑顔を浮かべて小敏を慰める。
高校の頃から、何ら変わらぬ関係だった。
「ねえ、この先のレストランに行くんでしょ?」
急に小敏が思い出したように言った。
「そうですよ」
文維が煜瑾と顔を見合わせて微笑むと、一瞬小敏は妙な表情を浮かべたが、すぐにお得意の人の良い笑顔になり、先に立って歩き出した。
「急がないと、人気店だから席が取れないよ」
確かにその通りだと文維は頷き、煜瑾に付き添うようにしてレストランを目指した。
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