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第29話
レストランに辿り着き、無事にお目当てのテラス席に着くと、羽小敏 は好奇心いっぱいの目つきでメニューを端から端まで読み始めた。
すっかり任せた唐煜瑾 は、静かに包文維 を見つめている。任せられた方の文維は、嫌いなものは無いか、好きな物は何か、アレルギーの心配は、などと細やかに訊ねて、煜瑾の気持ちを逸らさないように気遣った。
そんな2人の様子を冷静に観察していた羽小敏だったが、注文を済ませ、料理を待つ間に手持無沙汰になると、どうしても我慢が出来ずに口を開いた。
「ねえ、いつから2人って付き合っているの?」
「し、小敏!何を言うんですか」
慌てたのは、大人しいはずの煜瑾の方だった。
「違うの?」
むしろ意外そうに小敏が身を乗り出し、2人の顔をまじまじと見比べる。
「そういう幼稚な好奇心を出す癖は、早く直しなさいと以前から言っているでしょう?」
呆れたように文維に注意された小敏は、不服そうに唇を尖らせ、グイと煜瑾の方に迫る。
「ねえ、本当に付き合ってないの?」
「あ、あの…」
親友からこれほど真剣な目で追及され、煜瑾は困惑してしまう。
確かに、付き合っているわけでは無い…。無いが…、出来ればそうなりたいと煜瑾は思っているのだ。
「先日、偶然に再会した時に、煜瑾が具合を悪くしたので手助けしたのです。今日はそのお礼に来て下さったんですよ」
文維が、決して嘘ではない範囲で答えた。
だが、根が素直で純粋な煜瑾は、それでは小敏に隠し事をしているようで悪いと感じたようだった。
「あのね…。本当は私の体調が悪いのは、メンタルの不調からじゃないか、って…。だから今日から文維に診察をしてもらうことになったのです」
「え~!」
言いにくい事を、恥ずかしそうに親友に打ち明ける煜瑾に、小敏は戸惑い、文維はその正直さをいじらしく思う。
「ゴメン…煜瑾…。聞いちゃいけなかったよね…」
今さらになって、羽小敏がシュンとして反省する。
「ううん。小敏は…親友だから…」
あくまでも淑やかで、高貴な笑顔を、煜瑾は小敏に向けた。小敏の無礼な行動さえも包み込むような、気高さだ。一朝一夕には真似が出来ない、生れながらの品格を備えた唐家の王子と呼ばれるのに相応しい、煜瑾の存在感だった。
高校以来の親友である小敏でさえ、そんな煜瑾に圧倒され、思わずウットリと見とれてしまう。
「ごめんね。心配掛けたくなくて…」
「ううん。でも、ボクに出来ることがあったら、何でも言ってよね」
「ありがとう、小敏」
お行儀よく膝の上に乗せられた煜瑾の手に、小敏は自分の手を重ねた。
それを見て、文維はまるで高校時代のようだと感じて気持ちが和んだ一方で、何か小さな苛立ちのようなものを感じる。もしくは、焦燥感…。
「小敏は、今後気を付けなさい。今のも、煜瑾の人柄に救われただけですよ」
「はあ~い」
小敏が拗ねたような顔をすると、煜瑾がクスクスと笑った。
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