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第41話

 自分自身でも驚くような言葉が口を突いて出た文維(ぶんい)は、慌てて煜瑾(いくきん)に言い訳をしようとするが、煜瑾は既に真剣に受け止めているようだ。 「その日は…、夜に会社のパーティーがあって…。翌日も…」 「いいんですよ。無理はしないで下さい。たとえ、数日ズレたところで、私の誕生日を祝おうと言う、煜瑾の気持ちに変わりがあるはずはないでしょう?」 「…それでも…、1年のうち、たった1日のことです。やはり、その日に文維が(うま)れてきてくれたことを祝いたいです」  煜瑾の純粋な思いやりに、文維は感動すら覚える。 「気持ちだけで充分ですよ」  そう言って、文維は腕時計に目を落とした。  この診療室には時計が無い。患者をリラックスさせるためだが、症状によっては隠してある置時計を出すこともある。  予備段階として、漫然とした話をするだけの煜瑾の場合、時計を置いて時間を確認させる方が効果的なのだが、文維はそうしなかった。相変わらず、煜瑾のカウンセリングの後は、午後から休診にしているのだ。 「では、お昼はどうですか?ランチにご招待します」  懸命な煜瑾の申し出に、文維は逆らえずに笑った。 「そうですね。考えておきます」  すぐに約束をしてもらえず、煜瑾は少し不満そうだったが、文維は安易な約束で、却って煜瑾を傷つけるのが怖かった。 「ああ、そうそう。小敏(しょうびん)と、玄紀(げんき)から連絡があって、今週の金曜の夜か、来週の水曜の夜なら2人とも都合が良いようですよ。煜瑾はどうですか?」  ようやく小敏、玄紀、文維の予定が合う日ができた。後は煜瑾だけだが、おそらくは煜瑾の都合ではなく、兄である煜瓔(いくえい)の都合で決まるに違いない、と文維は読んでいた。 「来週の今日…水曜の夜なら大丈夫です」  珍しく自信を持って答える煜瑾に、文維の方が不思議に思う。 「え?お兄様に、お許しを得てからでなくてもいいのですか?」 「はい。兄は来週の水曜の朝から金曜の午後まで、北京へ出張なのです。私も一緒に、と言われましたが、文維のカウンセリングがあるので断りました」  なるほど。  その言葉に文維は納得した。あの過保護の兄が留守となれば、煜瑾も少しは自由が利くということか。 「では、2人には、私から返事をしていいですか?」 「はい。時間と場所が決まったら、文維から連絡いただけますか?」 「もちろん」  そうしているうちに、カウンセリングの予約の時間が終わる。 「文維…」  終了前の「お約束」を、もう一度煜瑾はねだった。 「お疲れ様…」  そう言って文維は煜瑾の居るカウチの横に座って、軽く彼を抱き寄せる。 「…文維…」  そうして濡れた瞳の煜瑾に、ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねる。  これがカウンセリング終了の「お約束」であり、煜瑾にとっては「ご褒美」だった。

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