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第43話
「包文維 は、煜瑾 にとって良いカウンセラーですか?」
何を思ったか、唐煜瓔 は弟にそう訊いた。
「はい。文維はとても親切で、丁寧で、私がイヤな事や無理な事はしなくていいと言ってくれます。文維と話していると、とても落ち着くのです。安心できて…。お兄様が、文維を私のカウンセラーに選んで下さって、本当に嬉しいです」
明るい煜瑾の表情に、煜瓔もやっとホッとするが、包文維のことは、煜瑾ほど手放しで認めることは出来なかった。
これまで、煜瑾のカウンセラーには3人の専門家を付けたことがある。ベテランの老医師であったり、野心家の女医であったり、唐家の本家に親しいイギリス人医師を招いたこともある。
彼らは、煜瑾の状態や症状を、煜瓔が尋ねればなんでも教えてくれた。薬を投与するようなことになった時も、薬品の効能や副作用まで細かく説明をしてくれたのだ。
結果、セカンドオピニオンによって、投薬は中止になったけれど、それはそれで煜瑾の体を守るためには必要な判断だった。
にもかかわらず、包文維は、煜瑾には知られぬよう接触しているというのに、何一つとして煜瑾の情報を、兄である煜瓔には話そうとはしないのだ。決して話したことを煜瑾には知らせないと繰り返し申し出ているというのに。
「カウンセリングの内容は、私からはお話しできません。どうしてもお知りになりたいのであれば、煜瑾に直接お聞きください」
あまりに生意気な返事に、唐煜瓔は不快感を隠さなかったが、包文維は動じなかった。
煜瓔に報告できるような成果が上がっていないのだろうと、訝って見せても、包文維は態度を変えるようなことは無かった。
そもそも、直接、煜瑾に聞けることができるようであれば、カウンセラーに頼んだりはしないのだ。その辺りの事を、包文維は分かってはいない。
とは言え、それがアメリカ式だと言われれば、カウンセリングの先進国のやり方を受け入れざるを得ない。
それに、こうして目の前にいる煜瑾が、包文維のクリニックへ行くようになって、これほど明るくなったという事実には代えられなかった。
「煜瑾が気に入っているのならそれでいい。私はカウンセラーと友人という2つの役割を、包文維が同時にこなせるのかが心配だっただけだよ」
兄の言葉に、煜瑾は大きく頷いた。
「文維なら大丈夫です。ね、私もすっかり元気になったと思いませんか?」
可愛い弟に微笑まれ、煜瓔も、頷かずを得ない。
「お前も、もう大人だからね。好きなようにしなさい」
珍しく大人扱いされたことで、煜瑾は晴れた表情で嬉しそうに兄を見詰めた。
「来週は久しぶりに友人たちと楽しむつもりですが、決してお兄様の信頼を裏切るような真似はしませんから、安心して下さいね」
甘えるような煜瑾の視線に、弟への愛しさが募る煜瓔だった。
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