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第47話
「今夜は、お前だけでなく、申玄紀 も予定が空いていたのでは、なかったかな?」
文維 は和風ドレッシングの豆腐サラダをつつきながら、小敏 を冷やかすように言った。
「呼んであげれば、喜ぶだろうに」
その一言に、小敏はフッと皮肉っぽく少女のような唇を歪めた。
「そんなことをしたら、煜瑾が仲間外れになるよ。可哀想だ」
先日のランチでは、玄紀を仲間外れにした人間が平気でそんなことを言うのを、文維は鼻で笑った。
「煜瑾のこと、泣かせたくないんでしょう?」
逆襲するように、だし巻き卵を口に運びながら、小敏が上目遣いで文維をからかう。
「あ、むしろ泣かせてみたい?」
好色な光を宿した目で、小敏が文維を見つめる。その視線の煩 さに、文維は店員を呼ぶことで逃げた。
「ビール追加。それと…」
メニューを見ようとした文維を無視するように、小敏が割り込んだ。
「サシミとクリームコロッケとアスパラのベーコン巻き下さい」
「…つくね焼きも2本下さい」
注文を済ませ、文維は食欲旺盛な小敏を呆れたように見た。
「現実から逃げて、好きでもない相手と遊ぶだけでは、お前の問題の解決にはならないのは、分かっているね」
「お説教はやめてよ。何の役にも立たないカウンセラーだったくせに」
辛辣な言葉だが、小敏の目は笑っている。本気ではないことは文維にも分かっていた。
「あれから、何かあったのだろう?話は、聞くよ」
文維がそう言うと、小敏は少し寂しそうな笑みを浮かべて、首を横に振った。
「ボク自身の問題だから。どうしたいのか、どうすべきなのか、分かってるはずなのに、踏み込めないだけなんだ」
「小敏…自分を責めるのは、やめなさい。悩んでいるなら、私から伯父様に…」
「やめて!」
店中に聞こえるような大声で、いきなり小敏が遮った。
「父に話すのは、やめてよ!」
ハッと我に返って声を落とすが、それでも小敏は真剣な顔で文維を睨みつけていた。
「しかしね…。一度、伯父様と話し合うことも必要だと思うけどね」
「……」
小敏の、この心の不安を肉体的な快楽で埋めようとする態度は、北京に暮らす、小敏の父にも関係があるのだ。そのことを知る文維は、小敏の父である伯父や自分の父とも話し合ってみたいとは思っていたが、小敏のカウンセラーとしての立場から、お互いの親は巻き込まないと約束させられている。
「お前の心身の健康を、みんな案じているのだからね」
「…分かってる…」
感情が昂った後の虚ろな表情で、小敏はそう言って、残り僅かなレモンチューハイを一息に飲み干した。
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