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第49話

 唐煜瑾(とう・いくきん)のカウンセリングを担当することになって以来、包文維(ほう・ぶんい)のクリニックは、毎週水曜の午後は休診だ。  医療秘書の張春梅(ちょう・しゅんばい)を見送り、2人きりになった文維と煜瑾は、くすぐったそうに笑い、仲良く戸締りをして、肩を並べて、クリニックを出た。 「今日は2回も、文維と一緒に食事ができる…」  喜びの余り、思わず心の声が口を突いて出た煜瑾に、文維は笑う。 「煜瑾が望めば、食事くらい、いつでもご一緒できますよ」 「本当ですか?」  輝くような笑顔を浮かべる煜瑾が、文維には少し眩しい。安心させるように、文維は煜瑾の目をしっかりと見つめて頷いた。 「お昼は、何を食べましょうか?」  文維が優しく言うと、煜瑾は恥ずかしそうに申し出てみる。 「あの…、この先のデパートで何か買って、私の部屋で食べませんか?」 「煜瑾の部屋?」  初めて聞く話に、文維は不思議そうに煜瑾の顔を覗き込んだ。煜瑾は、茶目っ気たっぷりの少年のような笑顔で、文維を見返す。 「実は、文維のクリニックに通い始めてすぐに、お兄様が近くの嘉里中心(ケリー・センター)公寓(アパート)を一部屋借りて下さったのです」  高級ブランドばかりのショッピングモール、「静安嘉里中心(ケリー・センター)」に併設されているレジデンスは、賃料が1カ月6万元(約100万円)もすると、文維も聞いている。そこを、煜瑾がクリニックに通うためだけに、兄の唐煜瓔(とう・いくえい)が借りたというのは、さすがに驚きだった。 「室内のインテリアは、全て私が1人で選び、自分で決めました。文維に、見てもらえたら…嬉しいです」  頬を染める煜瑾に、文維も笑うしかない。 「ケリーセンターの北エリアにはスーパーもあります。そこで買い物をして…」  北エリアには、文維が気に入っている、ファッションブランドのポールスミスのショップも入っているのでよく知っていた。 「電子レンジも使えるようになりました」  誇らしげに言う煜瑾が、可愛らしくて、文維も断り切れない。 「私は、美味しい冷凍食品を知っています。それを買って行きましょうか?」 「はい!」  ごく自然な仕草で、文維は煜瑾の腰のあたりに手を回し、スマートにエスコートする。それが嬉しい煜瑾だが、慣れた様子が少し哀しい。親友の羽小敏(う・しょうびん)を含め、どれだけの人間が、こんな風に優しくされたのだろうか。  それを占有できる、今の自分は幸せだ、と、自分に言い聞かせる煜瑾だった。  クリニックのあるビルを出て、2人はゆっくり歩きながら静安寺の前を過ぎて、いかにも高級そうなケリーセンターの建物に近付いた。  ここは巨大なショッピングモールを中心にした、大きな複合施設だ。海外の高級ブランドのショップだけでなく、2人が目指す高級スーパーや、いずれも名店ばかりのレストランも多い。煜瑾のレジデンスの他に、ホテルもあればビジネスオフィスもある。  このケリーセンターの中だけで、不自由なく生活できるほどに設備は整っている。  2人は、地下鉄に直結している北エリアで買い物を済ませ、レジデンスのある東エリアに向かった。

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