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第51話
「寝室は2つあるのです。私のと、ゲスト用と」
そう言いながら煜瑾 が開けたドアの先は、柔らかな水色を基調にした主寝室だった。
明るく、広く、かつ安静感のある寝室だった。
ネイビーブルーのシルクのシーツやカバーで統一された、キングサイズのベッドが据えられている。サイドボードなど、どれも低めの物が揃えられており、圧迫感がなく、寝室として理想的な伸びやかさがある。
だが、どこか整いすぎて生活感が無く、モデルルームのような印象があった。
「煜瑾は…、ここで寝ているのですか?」
手を繋いでいた煜瑾を、そう言いながら、文維 は何かを決意した表情で引き寄せた。
「いいえ。まだこのアパートに泊ったことは無いのです」
結局は、兄からの無言の圧力から逃れられない煜瑾なのだと、文維はすぐに理解する。
「じゃあ、このベッドは使われたことがないのですか?」
「そうですね、まだ…」
はにかむように微笑む煜瑾を、いつものように柔和な顔で見詰めていた文維だったが、急に険しい表情に変わった。
「文維?」
次の瞬間、煜瑾には信じられないようなことが起きた。
「ぃやっ!」
文維はいきなり煜瑾を抱きすくめると、そのままベッドに強い力で押し倒した。
「いやだ!ヤメて!」
急な事に、煜瑾は動揺し、むやみに抵抗をするが、日頃、温厚で物静かな文維とは思えぬほどの圧倒的な腕力で押さえつけられ、体をまさぐられた。
「やめて下さい、文維。イヤです…。こんなこと…、しないで…下さい」
途切れ途切れに煜瑾は拒絶するが、人が変わったように文維は強引に唇を奪い、煜瑾の衣類にも手を掛けた。
「イヤだっ!放して!触らないで!」
(来たか…?)
文維の突然の暴力に、煜瑾は恐慌状態に陥る。そして、現実が薄れ、過去の記憶と重なって、忘れていたはずの恐怖をありありと思い出してしまう。
「やめて!私に触らないで!」
煜瑾の息遣いが変わる。完全にパニック発作の予兆が出ていた。
「イヤだっ!そんな汚い手で私に触るな!」
あのおとなしい煜瑾が、悲鳴を上げるように叫んだ。
「臭い息で近付くな!汚らわしい!」
煜瑾が、すでに自分を見ていないことに気付きながら、文維は手を緩めなかった。煜瑾の両手首を掴み、体を重ねて体重を掛けて押さえ込み、泣き叫ぶ煜瑾の唇を塞ぎ、逃げられないように追い詰めた。
「イヤだ!やめて…、許して…。酷い事はしないで、下さい」
泣いていた煜瑾の様子が変わった。力が抜け、目は視点が合わず、ガクガクと震えながら譫言を繰り返す。
「そんなこと、やめて…。それ以上、しないで…。怖い…、怖いよ…。痛いのは、いやです…」
そのまま煜瑾は、幼い子供のように、グズグズと泣き出してしまった。
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