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第56話
「煜瑾 !ご招待ありがとう!」
「小敏 も、玄紀 も、わざわざ来てくれてありがとう!」
「煜瑾がこんなトコに住んでいるなんて、聞いて無かったですよ!イヤだなあ、もっと早くに教えてくれたっていいのに」
唐煜瑾の小さなお城に集まった、高校時代の仲良し4人組の夕食会は賑やかに始まった。
煜瑾の好きな上海料理が幾品も並び、小敏が好きな四川料理の麻婆豆腐や、海老の四川ソース炒めなど、辛い物が苦手な煜瑾も少し食べて美味しい、と、なり、みんなで盛り上がった
スポーツ選手である玄紀は、食事制限などもあるはずだが、今夜は特別だと言って、ラザニアや、魚介と野菜たっぷりのアヒージョなど文維が個人的に懇意にしている、隠れ家的スペインバルのメニューに舌鼓を打った。
小敏が、日系デパートの久光のデパ地下で買って来た、日本の梅酒は甘く、ソーダ割にすると口当たりもよく、煜瑾もすっかり気に入ってお代わりまでした。
そんな楽しげな後輩たちの様子に、文維は満足していた。みんなそれぞれ、悩みを抱えているのは知っている。けれど、こうやって集まれば、幸せだった高校時代に戻れるのだ。
「文維は…、何か食べないのですか?」
大きなダイニングテーブルいっぱいに並んだ料理や飲み物に、デザートまでを前にして、文維はアメリカ産のアップルサイダーを舐めるように飲むだけで、ただ大人しくしているだけだ。
心配になった煜瑾は、自分が食べられるようになったエビチリをお皿に乗せて、文維に差し出した。
「心配を掛けましたか?ゴメンなさい」
文維は笑いながら煜瑾に謝り、北欧の高級食器に乗ったエビ料理を受け取った。
「何か、ご不快なことでも?」
少し哀しそうに眉を寄せ、文維の機嫌を取るように、煜瑾は隣にピッタリと座り、テーブルの上に置いた文維の手に、自分の手を重ねた。
それを、小敏が目敏く気付いた。
そして、一瞬だけ意地悪い笑みを浮かべ、すぐに持ち前のお気楽な笑顔に変えて、急に話を始めた。
「そうそう、この前、文維と2人きりで食事に行った時にね~」
「え~!なんで小敏が文維と2人で食事に行くんですか!」
一番に反応したのは玄紀だったが、小敏は煜瑾の顔色が変わったのも見逃さない。
「あの時も、急に文維が不機嫌になっちゃって…。ボク、つまらないから、ついついお酒を飲み過ぎたんだよね~」
そう言って、小敏は煜瑾だけでなく、文維の反応もチラリと窺う。だが、煜瑾とは違い、文維は素知らぬ顔でグラスを置き、煜瑾に勧められたエビを、箸で摘まんでいた。
止める様子の無い文維に、小敏は手を緩めることをしなかった。
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