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第63話
(何…、このカラダ…)
振り返った羽小敏 は、言葉も出ずに固まってしまった。
そこに居たのは、浅黒い肌に引き締まった手足、割れた腹筋を持つ、鍛え上げられたアスリートの美しい肉体を持つ申玄紀 だった。
ボサボサの髪をボリボリと掻きながら、大欠伸をしているが、その体は派手な赤いボクサーショーツ1枚という遠慮の無い姿だ。
(カラダで挑発してるつもりかな?)
小敏は、その肉体をしっかり鑑賞しながらも、玄紀の企 てを推しはかろうとするが、実際に普段から玄紀は下着1枚で寝る習慣らしく、特に今朝は、昨夜飲み過ぎたせいで相当ぼんやりしているらしい。
「申玄紀お坊ちゃま、そのようなお姿では余りにも大人げございません。お部屋にお戻りになり、シャワーでも浴びて下さいませ」
高貴な煜瑾 の目にでも触れては一大事と、茅執事は粛々と玄紀をゲストルームに追い返す。
「あ、うん。私もそう思うんだけど、タオルの場所が分かりません」
眠そうにしながらも、玄紀はそう言って、茅執事と共にゲストルームに戻って行った。
(う~ん、侮れないな、申玄紀…。でも、引退って…。聞いたこともないけど…)
微妙に揺れる心に、ちょっと不安を抱く、羽小敏だったが、何もかも振り切るようにミルクティーを飲み干して、テレビを切った。
濡れた髪をタオルで包み、ベビーイエローの、ヒヨコのようなフカフカのバスローブを着て、唐煜瑾はバスルームを出て、寝室に戻った。
ウォークインクローゼットに向かおうとした時、ベッドの横で充電中のスマホが光っているのに気付いた。
(誰かが…、文維が、ちゃんと充電してくれたのかも)
文維の気配りが嬉しくて、煜瑾はスマホを取り上げた。
「あ!」
思わず声を出してしまったが、煜瑾にとっては、それほど嬉しいものだった。
それは、文維からのメッセージの着信を知らせるものだった。
―煜瑾、おはようございます。
―今朝の気分はどうですか?
―二日酔いにでもなっていないか心配だったので、茅執事に連絡をしました。
―無理をせずに、ゆっくり休んで下さいね。
―来週の水曜日、いつもの時間にクリニックで待っています。
自分を気遣う文維に、煜瑾は胸がいっぱいになる。
たったこれだけのことで、自分をこんなに幸せな気持ちにさせる文維は、素晴らしいと煜瑾は思うのだ。
(来週の、水曜日…)
ふと煜瑾の眼差しが曇る。
(もっと、早くに会いたいな…)
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