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第65話
「ベッドに入っても、ギュッと文維 のセーターを握って離さなくて…。とっても可愛かったな~、煜瑾 ってば」
小敏 にしてみれば、好意的な内容で微笑ましいと思うのだが、煜瑾は恥ずかしいのと、文維に迷惑を掛けたのではないかという申し訳なさで、オロオロとしている。
「ほ、本当?本当に、私がそんな事?」
「本当に何も覚えてないの?」
「…他に、何もしていませんか?」
小敏は少し考えこんだ。
(文維は帰ってはイヤです!今夜は帰しません!)
(ダメですぅ~。文維は帰ってはいけません~)
(文維は~、帰ってはダメぇ~。私の寝室で一緒に寝るのですぅ~)
昨夜の煜瑾の発言は、どれもカワイイと小敏は思うのだが、きっと煜瑾は恥ずかし過ぎてショックを受けるのではないかと思う…。
「ねえ、小敏っ。私は文維に何も変な事を言ったりしてないですよね」
「う~ん」
自分の太腿の上に手を乗せ、身を乗り出して迫って来る煜瑾に、小敏も何と言ったものか、困ってしまう。
「煜瑾坊ちゃま!」
いつまでも朝食に顔を出さない煜瑾が気になった茅 執事は、リビングのソファの上で煜瑾自らが、小敏にキスでもしようかという勢いで迫る姿に珍しく慌てた。
「なあに?」
何ら悪びれた様子も無く、煜瑾は振り返り、信頼のおける執事を見た。その天真爛漫な様子にホッとして、茅執事はいつも通り、平静に話し掛けた。
「朝食が冷めてしまいます。それに、本日は会社の方にはお休みの連絡をしてございますので、スーツはご不要ですよ」
「え?今日は、出勤しなくていいのですか?」
不思議そうに聞き返す煜瑾に、何もかも分かった様子の茅執事は頷く。
「今朝、包文維先生からお電話をいただいた時に、おそらく煜瑾お坊ちゃまはお疲れだろうとことでしたので、煜瓔旦那さまにご連絡をして、欠勤されることをお伝えしました」
「そうですか…、文維が…。じゃあ、今日は思わぬ休暇ですね。小敏とも、ゆっくり話が出来ますね」
またも周囲を魅了するばかりの無邪気な微笑みを浮かべて、煜瑾は言った。
「その前に、朝食を召し上がって下さい」
「ここで、小敏の隣でいただくから、運んで下さい」
そんなカワイイ我儘まで言って、煜瑾は小敏ににっこり微笑みかけた。
「承知いたしました」
渋々と言った様子で、茅執事はキッチンに退がった。
それと入れ替わりに、玄紀がリビングに駆け込んでくる。
「煜瑾、聞いて下さい!昨日の夜、私をソファに寝させておいて、小敏も文維もどこかへ行ってしまったんですよ」
「ええ!」
昨夜の記憶がない煜瑾はビックリするが、小敏は笑いながら否定した。
「ウソですよ。私と文維とで煜瑾を寝室に運んでいたのです」
「ああ、そういうことですか…」
素直な煜瑾は、露骨にホッと安堵の表情をする。
「だから私は、ゲストルームに行って、ベッドに入って小敏を待っていたのです」
ソファで寝かされるなど屈辱だとでも思ったのか、玄紀はゲストルームの2つあるうちの片方のベッドを確保したのだが、いつまで待っても隣のベッドに小敏は戻らない。そのうちに、つい玄紀は寝入ってしまったのだった。
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