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第69話

煜瑾(いくきん)は、何を買いたいの?」  小敏(しょうびん)が優しい笑顔で訊くと、煜瑾はちょっと困った顔をした。 「え?どうした?」 「…実は…、来月の文維(ぶんい)のお誕生日にプレゼントを、って、思うんですけど…。文維が何を喜んでくれるのかが分からないので、小敏にアドバイスがもらえたらな…って…」  可愛すぎる、と小敏は思った。好きな人に夢中で、健気で、なんて純粋なのだろうと改めて思う。 「ボクはね、煜瑾が選んだものなら、文維は何でも喜ぶと思うよ」  そう言って、小敏は煜瑾の手に自分の手を重ね、ポンポンと叩いた。 「自信を持っていい。煜瑾は、文維に愛されてるからね」 「…」  戸惑いながらも煜瑾は、俯いたまま、黙って頷いた。  モールに着き、タクシーを降りると、小敏は煜瑾に切り出した。 「ねえ、映画は次回にして、先に文維のプレゼントを探そうか?」 「はいっ!」  まるでキラキラと輝きそうなほど、晴れやかで、明るい笑顔で煜瑾は答えた。  2人はモール内を、仲良く肩を並べて歩き、ああでもない、こうでもないと慎重にプレゼント選びをしていた。 (ま、個人的には、煜瑾がいれば、文維はそれで満足なんじゃないかと思うけどね)  温かい眼差しで煜瑾を見守る小敏だったが、急に煜瑾が心配そうに見返してきた。 「小敏、疲れた?」  モールに来てまだ1時間だが、煜瑾は無口になった小敏を気遣っていた。 「ううん、大丈夫。煜瑾は?」 「私は大丈夫ですけど…。迷ってばかりで、なかなか決まらなくて、ゴメンなさい」 「ボクは、全然、平気だから!それより文維の欲しがるようなプレゼントっていうのに、ロクなアドバイスできなくて、ボクの方こそゴメンね…」  小敏の言葉に、煜瑾はふと顔色を変え、笑顔が消えた。 「どうしたの、煜瑾?やっぱり疲れた?」  このモール内のあちこちにある、休憩用のオシャレな椅子に空きを見つけ、小敏はそこへ煜瑾と並んで座った。 「急にどうしたの、煜瑾?元気がないよ?」  心配した小敏が、その綺麗な顔を覗き込むと、煜瑾は思い詰めたような表情をしていた。 「…小敏は…」  ようやく口を開いた煜瑾に、小敏は優しく応じる。 「ん?」 「小敏は、どうして文維と別れたのですか?」  煜瑾の胸に痞えていたことが分かり、小敏は柔らかく笑った。 「卒業後、お互いに留学することになって…、なんとなく、かなあ」  曖昧な小敏に、煜瑾は真剣な眼差しを向ける。  こんなに一途に思われている文維が羨ましいと、小敏は思う。 「好き…、だったのでしょう?」 「まあ、嫌いになって別れたわけじゃないけど…。もともと、ただの初恋だからね、実らなくても仕方ないよ」  笑いながら小敏は無難な答え方をしたつもりだったが、煜瑾は驚いたようだ。 「初恋は、成就しないものなのですか」 「大抵、そうじゃないかな?煜瑾も、そうでしょう?」

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