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第71話
「でも…」
煜瑾 は、なんだか不安だった。
高校時代、初めて会った時から、煜瑾はずっと包文維 だけを想っていた。彼以外に誰も煜瑾の心を動かす人は、これまでもいなかった。
煜瑾には文維だけ。
最初から彼だけを好きだった。これは、初恋が続いているだけではないのか?
「今の文維とは、あの頃とは違うでしょう?初恋じゃなくて、言ってみればセカンドラブだよ。初恋じゃないなら、お互いの努力次第で実を結ぶよ」
煜瑾を励まそうと、小敏 はそう言った。
「お互いの…努力?」
そう言われて煜瑾は、まだまだ努力が足りない自分に、心が痛んだ。
グッチやプラダ、ヴェルサーチなどのブランドを回っても、結局、煜瑾は文維が喜びそうな物を見つけられず、仕方なく2人は昼食を摂りながら、作戦を練り直すことにした。
小敏は良さそうなレストランの候補をいくつか挙げ、その中から煜瑾が行ったことが無いという、日本のトンカツ屋さんに行くことになった。
席に着き、食べやすいローストンカツとミックスフライの定食を注文し、初めてのことに、その期待が目に見えるほど嬉しそうな煜瑾が、小敏も幸せにした。
買い物の話や、高校時代の話、2人は大学も同じだったため、共通の話題が多かった。
そこへ料理が運ばれ、煜瑾は目を輝かせた。
「煜瑾は、いろんなものが食べたいだろうから、こっちのミックスを食べて。でも、ここのロースカツも美味しいから、これも1つ食べてみてよ」
煜瑾をさらに楽しませたくて、小敏は、熱々の柔らかいロースカツの真ん中の一切れを煜瑾のお皿に移した。
「いいのですか?わあ、嬉しい」
煜瑾に、素直にそう言われると、言われた方は不思議と心から嬉しくなる。これが、高貴な者が与える恩寵というものかもしれない、と小敏は思う。
かつて皇帝が支配していた時代、その封建的な身分差を支えていたのは、実際のところ暴力や金銭などと言う卑しいものではなく、生まれながらにして高貴な存在の品位そのものだったのではないか、と唐煜瑾を見ていると小敏はそう思う。
唐煜瑾が喜んでくれたら、微笑んでくれたら、それ以上の見返りは必要としない気高さが煜瑾にはある。
「じゃあ、この大きなエビフライは2つあるから、1つは小敏に、ね」
そして、こうやって鷹揚に自分の物を分け与えるのも、育ちが良い証拠だ。
「ありがとう、煜瑾。大好きだよ」
「え?もう、小敏ったら、大げさですねえ」
心から楽しそうに笑う煜瑾を、小敏は性愛的な意味ではなく、本当に愛しいと思った。
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