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第73話
「ねえ、玄紀 から、ボクに取り成すよう、頼まれたの?」
半笑いをしながら、小敏 は煜瑾 に貰ったエビフライを、美味しそうに口へ運んだ。
「そういう訳ではありませんが、玄紀はちょっと寂しそうでしたので」
心優しい煜瑾は、先ほどは自分ではなく、茅 執事の味方をした幼馴染にさえ、細やかな配慮を見せる。
それが煜瑾らしいと分かっている小敏は、それ以上何も言わずに黙々と食事を片付けた。
「玄紀のこと…、嫌いじゃないですよ、ね」
余りに邪険にされる玄紀に同情してか、悲しそうに俯いて煜瑾は呟いた。
「玄紀には…、僕なんて相応しく無いよ。もっといい相手と出会って、幸せになって欲しいんだ」
自虐的な笑いを浮かべて、小敏は、心のこもらない言葉を吐いた。
「玄紀のこと、友達以上には見られないということですか」
「そうだね。もっと言うと、弟みたいなものだから」
何気なく言った小敏の一言に、煜瑾は激しく反応した。
「でも!…それでも、小敏にとっての文維も、兄弟のような存在だったのでしょう?それなのに、…ちゃんと恋人だったのではないですか…?」
煜瑾の余りに素直な反応に、こんなに、思われている文維は幸せだなと、小敏は繰り返し思う。
煜瑾には、利己的なところが無い。いや、文維に愛されたという気持ちは持っているが、それは余りに純粋で、一途で、自己中心的というものとは違うのだ。ただ素直で、心のままに想いを傾けているに過ぎない。そんな気持ちで愛されるというのは、どれほど文維は幸せな事だろう。
決して煜瑾を傷つけるつもりは、小敏には無かった。
それでも、玄紀を「弟」と評したことで、「兄」とも思っていた文維と小敏が関係を持っていた過去の事実に、煜瑾は胸を痛めたに違いない、と小敏は思った。
「それは…。文維とは、寝てみたいって思えたから」
決して初心 な煜瑾を困らせるためではなく、当時の正直な気持ちのまま小敏は答えた。
「そ、それは…」
思った通りに、煜瑾は顔を真っ赤にしてしまう。可愛いとは思う、けれど、そこはキレイごとじゃないと小敏は続けた。
「煜瑾だってそうじゃない?文維とはセックスできるけど、弟みたいな玄紀とは出来ないでしょう?」
余りに直接的に言われて、今度は、煜瑾は青ざめた。
「そ、それは…。その…。私は、まだ、文維とは、そんな…」
だが、煜瑾の意外な反応に驚いたのは小敏のほうだ。
「え?まだセックスしてないの?」
「や、やめて下さい!そんなこと、言わないで」
そんな直截的な言葉が恐ろしいかのように、ギュッと目を閉じ、身を硬くして、煜瑾は、しどろもどろになってしまった。
その態度に、本当に煜瑾は文維と一線を越えていないのだと小敏は確信した。
「あ、ゴメン…」
なんと言って良いものか分からず、取り敢えず小敏は謝った。
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