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第77話
「え~、高校生には言えない~」
小敏 はふざけて笑っているが、煜瑾 は俯いて黙り込んでいた。
鈍感と思われている玄紀 ですら、唐煜瑾が目の前にいる包文維 に恋していることは気付いていた。
それを、いつも文維の隣にいる、自分の親友である羽小敏に気後れして何も言えなかったのだ。
小敏や文維とは中学からの知り合いだが、煜瑾とは親同士が知り合いで、ほんの赤ん坊の頃からの付き合いだ。煜瑾の両親が事故で亡くなってからは、玄紀の両親も煜瑾の兄、煜瓔 を気遣っていた。
幼い頃から知っている、物静かな煜瑾が密かに思っているだけの相手と、小敏が深い関係だと知ってしまったのは、玄紀にも複雑な気持ちだった。
この頃くらいから、玄紀は包文維が嫌いになった。
そして、小敏が大学卒業と同時に日本に留学すると聞いた時、同時に文維とは別れたと聞かされたのだった。
そこからの4年間は、玄紀は小敏ともロクに会えなかったが、噂によると、文維と小敏は度々会っていたらしい。
もちろんそれは、恋人としてではなく、玄紀と煜瑾がそうであるように、幼い頃からの兄弟のような関係がそうさせているのだと、自分に言い聞かせてはいたが、それでもモヤモヤとした気持ちは、そう簡単に晴れなかった。
そして、4年もの日本への留学から帰った小敏は、信じられないほど変わっていた。それはサラサラの黒髪の色が変わっていたとか、服の好みが違うとか、そういう見た目の違いでは無かった。
文維とは、留学前に別れたとは言っていたものの、日本で何があったか知らないが、帰国後の小敏は特定の恋人を作ろうともせず、まるで日替わりのように次々と誘われるままに相手を替え、体の関係さえ厭わないようになっていた。
そんな小敏が心配で、何度も「たった1人の恋人」への名乗りを上げた玄紀だったが、恋人どころか、一夜の相手にすら選ばれることは無かった。
それなのに、別れたはずの恋人である包文維とは時々2人きりで会い、1つのベッドで眠る関係を続けているというのだ。
玄紀は、目の前の文維に、またも怒りが湧き上がる。
「今朝は、大変だったんです!小敏が煜瑾を唆 せて茅 さんを怒らせるし…」
「唆す、と言いましたか?」
その言い方を文維は聞き咎めた。
実際に小敏が何かをしでかしたと心配するよりも、それに同調した煜瑾の方が気になったのだ。ついに煜瑾も自分の考えで動き出したのかと、文維は1人ほくそ笑んだ。
「そ、そうです。煜瑾みたいな子は、茅執事の言うことを聞くはずなのに、それを逆らって、2人で外出までしたんですよ」
口に出して言ううちに、ますます怒りが収まらなくなった玄紀は、今にも文維の胸倉をつかみそうな勢いだ。
「何もかも、文維が悪いんですからね!」
「そんな、不条理な…」
文維は呆れて玄紀の顔を覗き込むが、玄紀の怒りに収まる様子は無かった。
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