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第82話
「ねえ、もしも、小敏 が文維 なら、お誕生日に何が欲しいですか?」
「だから~、ボクの意見じゃなくて、煜瑾 が、文維のために考えて」
「ん~と、では、去年、文維に何かプレゼントをあげましたか?」
確かに、小敏は毎年、誕生日とクリスマスを兼ねたプレゼントを、兄代わりの文維に送ってはいる。
「一応ね…。でも去年は、文維のご両親と4人で行った食事代とかだし。その前は、ちょうど文維が車を買い替えたから、キーケースとか…。あんまり考えたものはあげてないよ」
その答えに、煜瑾はますます困惑した表情になる。
こういう時は、考えれば考えるほど、どうすればいいのか分からなくなるものだ。
「もう、いっそボクが煜瑾をラッピングしてプレゼントしちゃおうか?」
「やめて下さいってば!」
小敏の冗談に、煜瑾も、やっと笑った。
「文維には、迷惑ですよ」
クスクス笑いながら言う煜瑾に、小敏は相変わらず憮然とした視線を送るが、本人は気付かない。
(好きなら…自分から行けばいいのになあ…。煜瑾なら、相手が文維でなくても、誰だって喜ぶと思うのに。…なんか煜瑾てば、文維のことを、過大評価してるんじゃないの?)
納得いかない小敏は、ジュエリーショップで迷う煜瑾の後ろ姿をジッと見詰めていた。
(まさか、本気で文維が性欲とか持たない「聖人君子」だと思ってない?)
余りにも飛躍した発想だと小敏は思いながら、唐煜瑾に限ってはあり得ないことではないと、急に不安になる。
(無い、無い。あの文維の駄々洩れフェロモンで、「聖人君子」とかって…。いや、でも、煜瑾の場合は…)
気が付くと、煜瑾が嬉しそうな顔で手招きをしている。
慌てて、どれどれ、と小敏が近付くと、ショーケースの上にはジャケットの襟に付けるピンブローチが並んでいた。
どれも小さな雪の結晶がモチーフで、ゴールドにはダイヤ、シルバーにはサファイア、ピンクゴールドにはルビーが付いている。
「うわあ、カワイイな~」
一目見て、小敏は思わず声が上がった。
「本当?小敏も、ステキだと思います?」
「うん。やっぱり煜瑾はセンスがいいなあ。こんなの見つけるなんて」
高校時代から小敏が決してお世辞を言わないことを知っている煜瑾は、親友からの賛辞に嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が輝くばかりに美しく、店員も少しポーっとなってしまう。
「文維のスーツ姿はとても素敵だし、そんな時に使ってもらえたら嬉しいなって」
「いつでも、文維の近くに居たいんだ…」
小敏が煜瑾の気持ちを代弁すると、ハッと胸を突かれたように煜瑾は顔を上げて、小敏を見つめた。その眼が少し寂しそうなのに、小敏は気付いた。
「で、3つのうちのどれがいいと、煜瑾は思う?」
なんとか煜瑾の気持ちを引き立てようと、小敏は明るく笑って話を戻した。
「クールな文維にはシルバーとサファイアが似合うとは思うのですが…。お誕生日とは言えクリスマスなので赤いルビーも捨てがたいかな、と迷ってしまって…」
迷っていると言いながら、煜瑾の頬はほんのり紅く、幸せそうだった。
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