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第83話

「ボクなら…」  口出ししないと言っていたはずの小敏(しょうびん)だが、健気な煜瑾(いくきん)に黙っていられなくなった。 「ボクなら2つ買う。1つは文維(ぶんい)に、1つは煜瑾のために」 「私?」  不思議そうに見返す煜瑾に、小敏は優しく笑った。 「文維とお揃いだよ?」  小敏に言われて、煜瑾はドキリとした様子で、頬だけでなく、全身を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いてしまった。  初恋は成就しない、と言うと、悲しそうだった煜瑾に、「初恋じゃなくセカンドラブ」と、励ました小敏だったが、この煜瑾の純粋で清らかな気持ちは、まさに初恋のそれだな、と思う。  そして、ふと小敏は寂しく思うのだ。  自分でさえ、こんな純真な気持ちを持っていたのに、煜瑾と違い、どこで失ってしまったのだろう、と。  煜瑾のように、文維を一途に思えるのは羨ましい。  自分が愛すべき人は、この人だ、と信じられる、迷いの無い心を、今の小敏には思い出すことも出来ない。  いつの間にか、羽小敏は、体でなく、心で人を愛するということが、出来なくなっていた。 「クリスマスシーズンだけでなく、冬の間はいつでも使えるように、文維にはシルバー、煜瑾にはゴールドがいい。そして、ね、服装に合わせて、時々は交換して使ったりするんだよ」 「そんな…文維に差し上げたものを、私が…、なんて…」  嬉しさをなんとか押し殺し、恥じらいの方は隠すことなく、煜瑾が言った。  こんなに従兄のことを大事に思ってくれる親友が、小敏には嬉しかった。 「だって、恋人同士なら、どちらの物なんて関係ないよ」 「こ、恋人ではありません…ので…」  慌てて否定する煜瑾に、小敏は苦笑する。 「このプレゼントをきっかけに、そうなるかもしれないのに?」 「!」  結局、煜瑾は小敏の言うように、シルバーとゴールドのピンブローチを購入した。 「さっきのデート服になら、シルバーもゴールドも合うな~」 「で、デートではありません。ただ2人で食事に行くだけです」 「それを普通は『デート』って言うんだよ」  小敏にからかわれながら、煜瑾はショップの紙バッグを大事そうに受け取った。 「ねえ、小敏、まだお時間はありますか?」 「え、ボク?うん、別に今日は何もないけど…」  珍しく煜瑾の方から誘われて、小敏は思わず煜瑾の顔を覗き込む。 「何か、あるの?」 「実は…」  少しはにかみながら煜瑾は、スマホの画面を小敏に見せた。 「この近くに、ステキなブックカフェがあるのですけど…、まだ行ったことがなくて…。もし良ければ小敏と一緒に行きたいのです」 「もちろん、喜んで!」

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