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第85話
心配そうな煜瑾 に、小敏 はなるべく明るく、元気に見えるように答えた。
「そんなこと無いよ、煜瑾」
「小敏は、嘘が吐 けないでしょう?」
即答され、小敏は言葉に詰まる。
「え~っと…」
「知っています…。みんなが、最近の小敏のこと、良く言わないということは…」
まるで自分の事のように煜瑾は悲しげだ。そんな親友の姿に、小敏も胸が痛む。
「でも、私は、小敏がどんな人間なのか、よく知っています。他人が何を言おうと、私は、私が知っている羽小敏しか信じません」
「煜瑾…」
強大な兄の庇護のもとに暮らし、自分に自信が無いように見える煜瑾だが、その信条の気高さもまた、高貴な生まれを感じさせる。
「小敏が今の生き方を変えたいというのなら、私にできることは何でもします。この生き方を変えないというのであれば、相手が誰であっても、私は羽小敏の味方になります」
神妙な面持ちで語る煜瑾に、小敏は心から感謝した。そして、小敏は居住いを正し、きちんとした態度で煜瑾を見た。
「ありがとう、煜瑾。ボクは、今、ボクの生き方を模索している。他人がどう評価しようが、ボクは構わない。ボク自身、このままでいいとは思ってはいないけれど、何かが見つかるまで、泥水の中で這いつくばって足掻 いてみようと思うんだ」
「…強い、ですね、小敏は」
感心したように煜瑾は言うが、小敏は自分がそんな人間ではないことを知っている。
「そんなことを言うと、惚れちゃうぞ、煜瑾」
そう言って茶化した小敏に、煜瑾はソワソワしながら答えた。
「困ります…わ、私には…文維 が…いるので…」
その後、2人は顔を見合わせて、ホッコリと微笑み合った。
カフェを出て、淮海路 に向かって歩いていると、急に小敏が思い付いた。
「ねえ、この後、文維を呼んで一緒に夕食に行かない?」
「今夜も?」
嬉しそうに、明るい笑顔を小敏に向けた煜瑾だったが、自分のスマホが鳴って驚いた。
すぐに発信者を確かめ、ちょっとその柳眉を寄せる。
「茅 執事からです…」
憂鬱そうな表情で、仕方なく煜瑾は電話に出た。
「何ですか?」
「煜瑾坊ちゃま。今夜のお食事は、アパートのほうにご用意いたしました」
「え?」
思わぬ執事の申し出に、煜瑾も驚いて小敏の顔を見る。
「わ、私は…、小敏と外で食べますから、夕食はいりません」
煜瑾にしては、精一杯の勇気を振り絞って言っていたのだが、茅執事は一向に動じた様子は無かった。
「羽小敏 さま、包文維 さま、申玄紀 坊ちゃまの分も、すでにご用意できております」
「で、でも…」
動揺する煜瑾に、事情を察した小敏は、そっと、その肩に触れ、白く美しい手からスマホを受け取った。
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