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第86話
「お電話代わりました、羽小敏 です。茅 さん、今朝ほどは大変失礼な態度で、申し訳ありませんでした」
煜瑾 は、まさか小敏がいきなり茅執事に謝罪するとは思わず、慌ててスマホを取り返そうとするが、小敏は渡そうとはしない。
「ボクのことは良く思われていないでしょうが、今日は、煜瑾や唐 家にご迷惑を掛けるようなことはしていません。煜瑾に、つらく当たるようなことは、止めていただきたい」
将軍家の子息らしく、毅然として羽小敏は言った。その威風堂々とした姿に、煜瑾は、やはり自分の親友は強くて頼もしいと思うのだった。
「羽小敏さま。わたくしの方こそ、煜瑾さまの事で感情的になり、無礼な真似をいたしました。煜瑾さまを、成人として尊重することを失念しておりました。羽小敏さまのご叱責で、わたくしも反省いたしました。どうぞご寛容下さい」
それが、執事の立場として言わせているのか、本当に茅氏が思っていることなのか、小敏には分からない。それでも、これ以上関係をこじらせる必要は無いと判断した。
「煜瑾さまが、もう一晩アパートにお泊りになりたいのではないかと思い、こちらにご夕食の支度をさせていただきました。よろしければ、ご友人の皆さまとお越し下さいますよう」
低姿勢な茅執事の言葉に、小敏はチラリと煜瑾に目配せする。
「ありがとうございます。あとの2人にも連絡をしてみますが、ボクは必ず伺います」
「お待ちしております。煜瑾さまのこと、よろしくお願いいたします」
そう言って、茅執事は電話を切った。
「小敏…」
心配そうな煜瑾に、にこやかに小敏はスマホを返した。
「茅さんに、夕食誘われちゃった…」
「無理しなくて、いいのですよ」
不安そうな顔をした煜瑾に、1人にすることは出来ない、と小敏は思っていた。
「煜瑾は、どうしたい?」
「私は…」
煜瑾は複雑な様子で、それでも小さい声で言った
「…今夜も、みんなに泊まりに来て欲しい…です」
「ん?文維に泊まりに来て欲しいって?」
「ち、違います!小敏ってば!」
ふざける小敏を軽く突きとばし、煜瑾は恥ずかしそうに笑った。
「ま、取り敢えず、文維に電話してみようかな~」
小敏がそう言ってスマホを取り出すと、煜瑾もスマホの画面を開いた。
「私も、玄紀に掛けてみますね」
「ん~…」
浮かない顔の小敏の反応に、煜瑾は気の進まない質問する。
「あの…、小敏は…、玄紀のことが嫌いですか?」
「嫌いって訳じゃないけど…」
「小敏が、文維を兄弟のように思っているのと同じように、私にとっても、玄紀は兄弟のようなものです。…玄紀にも、幸せになって欲しいと思います」
思いやりの深い煜瑾には心動くが、その期待に応えられないと分かっている小敏だった。
「ボクに、玄紀の面倒を見ろって言うの?」
冗談めかしているが、どこか突き放すように冷たい。
そんな小敏に、煜瑾も切ない。
「そういうつもりでは無いのですけど…。玄紀は、小敏のことが好きですよ」
「そんなの、ずっと知ってる…」
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