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第99話

「いい加減にして下さい。私はもう大人です。自分のことは自分で決められます!余計な干渉は、しないで下さい!」 「余計な干渉とはなんですか?」  急に始まった煜瑾(いくきん)の反抗に、唐煜瓔(とう・いくえい)は怒りというよりも、呆れた様子で弟を諫める。 「私はもうオトナです。いつまでもお兄様たちに縛られたくありません」  生れて初めての自己主張に、煜瑾自身、アドレナリンの放出が止まらない。 「これからは、私は自分のことは自分で決めます!」 「何を言いだすんだ、煜瑾。これまでだって、お前は、自分の好きなようにしてきただろう。私はお前が嫌がるようなことを、一度も強いてはいないはずだ」  そう言われながらも、まるでケンカ中の子猫のように、フーフー息を継ぎながら、煜瑾は興奮が収まらない。 「違います!私は自分の生き方を、自分で決めたいだけです」  場所が会議室だけに、遠巻きにする社員の目に気付き、唐煜瓔はすぐに(せん)秘書を呼んだ。 「すぐに帰宅する。車の用意を」 「すでに、地下の駐車場で待機させています」  さすがに仕事に隙のない宣秘書ならではの手際の良さだった。しかも、人目の多いビルのロビーを通る正面に車を回すのではなく、エレベーターで地下まで行き、目立つことなく直接車に乗れるよう配慮がされている。 「とにかく、話は帰ってからだ、煜瑾」 「……」  感情のリミッターが外れた煜瑾は、息を荒らげたまま、ノートを持って立ち上がり、自分に与えられた副社長室へと戻っていった。  憮然として唐煜瓔は首を振り、無言のまま手を振って、宣秘書に煜瑾を連れてくるよう、命じた。  何とか宥めすかして帰る用意をさせた宣秘書に引きずられるようにして、煜瑾は地下の駐車場に現れた。  兄の煜瓔は、既にリアシートで難しい顔をして座っている。  その隣に押し込まれるようにして、煜瑾も乗車すると、唐家の(おう)運転手が車を出した。  一応、車の脇で深々と頭を下げて見送る宣秘書に、煜瑾は車窓から会釈をする。そんな素直で、いつも通りにお行儀のよい煜瑾に、唐煜瓔も少しホッとする。 「まったく、急にどうしたというんだ。あんなに騒いで、煜瑾らしくないだろう」 「……」  まだ怒っているらしく、煜瑾は唇をギュッと結んでいる。 「そんな風になったのは、包文維(ほう・ぶんい)が原因なのか?」 「!」  兄に問われて、煜瑾はハッとしてその顔を振り返る。 「今後、2度と、包文維に会うことは許しません」  突然、煜瓔は冷酷に煜瑾に言い付けた。

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