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第116話

 全てを文維(ぶんい)に告白した煜瑾(いくきん)はぐったりとして、文維に身を任せていた。それをしっかりと抱き留め、文維は煜瑾を励ますように声を掛けた。 「よく頑張りましたね。自分に何があったか、認められたことで、煜瑾はそれを乗り越えることができます。煜瑾には、それが出来る強さがあります。それに、1人ではありません。私がいつでも傍にいますよ」  煜瑾にはそれに応える気力も無かった。  それが不憫で、文維はただ煜瑾を腕に抱き、髪にふれ、頬を温めた。  散々、男に弄ばれた後、煜瑾は気を失い、翌朝目覚めると監禁されていた屋根裏部屋はもちろん、元々空き家だったらしいその家には誰も居なかったという。  傷付けられ、心身ともに限界に在りながら、煜瑾は1人でその空き家から逃げ出し、人通りのある所まで来たものの、そこで倒れ、通りがかりの人が呼んだ警官に寄って救われたのだと言う。  次に煜瑾が覚えているのは病院のベッドの上で、そこには面倒を見てくれていた弁護士がいた。そして彼から、煜瑾が誘拐され、身代金の要求があり、煜瑾の留学費用として用意した口座から支払ったと知らされた。 「煜瑾さまが、ご無事で良かった」  その時、弁護士はそう言ったが、煜瑾は決して自分が「無事」だったとは思えなかった。想像もしなかった暴力を受け、人の悪意を知り、自分の中の何かが壊されたような感覚だった。 「それでも、犯人の顔を見ていた煜瑾が生きて戻れただけでも、私は良かったと思いますよ」  文維は煜瑾の命が救われたことに感謝した。もし、その時に煜瑾が殺されでもしていたら、再会することも、こんなに愛しい気持ちを知ることも無かっただろう。  煜瑾を愛してしまったことは、苦しいことではあるけれど、それでも、文維にとって、初めて心を震わせるような感情なのだ。もう失うことは出来ないと文維は自覚していた。 「…それだけでは無かったのです」 「え?」  ぼんやりと文維の胸の中で身を預けているだけの煜瑾が、低い声でポツリと言った。 「木曜の朝、私は助けられ、病院へ運ばれた時には意識がありませんでした。私も、弁護士も知らないうちに、私は検査をされ、治療をされました」  もう涙も枯れたように、煜瑾は青白い顔をしているが魂が抜けたような無表情だった。 「乱暴されたことを知られ、HIVや感染症の検査をされ、傷の治療もされました。そして、私の体から採取された犯人のDNAが警察に報告されました。何もかも、私の知らないうちに行われたのです」  そこで初めて煜瑾はギュッと眉を寄せた。

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