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明月之夜 ~月の輝く夜に~ 第119話 | 荷蓮花の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
明月之夜 ~月の輝く夜に~
第119話
作者:
荷蓮花
ビューワー設定
119 / 201
第119話
煜瑾
(
いくきん
)
が目を覚ますと、そこは
文維
(
ぶんい
)
のベッドの上だったが、文維の姿はない。 昨夜はあれから文維に薦められ、シャワーを使い、持参したパジャマに着替え、文維のベッドで、1人で眠った煜瑾だった。 文維はおそらくリビングのソファで寝たのだろう。 自分がいきなり押しかけたばかりに申し訳ない、と煜瑾は思った。 身を起こし、周囲を見回す。 きちんと整頓され、一方の壁に大きな書架があり、難しそうな医学書が並んでいる。知的な文維らしい寝室だ。 シンプルなグレイと白の細いストライプのシーツに、濃淡のあるグレイのベッドカバーは無機質だが、それがクールな文維らしいとも言える。 カーペットは無地のキャメルブラウンで、全体のバランスからすると、ちょっと物足りない気もする。 煜瑾はふと思った。 (私なら、いっそ華やかな柄のペルシャカーペットにするかな。色も、せめてブルー系。文維が嫌いでなければ、赤やグリーンもいいな) 自分なら、もっと文維に相応しい部屋にしてあげられるのに、と煜瑾は思い、そして急に恥ずかしくなる。 (わ、私が住むわけでも無いのに…) 煜瑾は1人頬を染め、ハッといつまでもパジャマ姿ではいられないと気付く。 寝室に続くバスルームで、見た目には傷一つない玉麗の裸身をシャワーでスッキリと目覚めさせた。 持参した下着はこれが最後で、あとは嘉里中心(ケリー・センター)のレジデンスまで取りに行かなければならない。 持って来た荷物の中から、煜瑾は、ディオールのベビーイエローのシャツブラウスに、お気に入りのポールスミスのモスグリーンのフラワーモチーフのパンツ、ソックスはサンローランのパステルイエローを選んだ。何か、この上に羽織るもの…と荷物を探したが、急いで荷造りをしたせいで思うようなものがない。 ちょっと困った煜瑾だったが、目の前のクローゼットに気付いた。寝室のクローゼットと言えば、文維の普段着が並んでいても不思議では無い。 好奇心も相まって、煜瑾はそのクローゼットをソッと開いた。 (わあ…) まず目につくのはズラッとならんだダークカラーのスーツだ。どれも細身で、いかにも文維に似合いそうなクールなスタイルだ。 (あ、これ…) その中の1着に見覚えがあった。 文維に助けられた夜、彼が来ていたダークブルーのポールスミスのスーツだ。思わず手に取った煜瑾は、そこにまだ文維のオードトワレの残り香を感じた。 少しムスクを感じさせるウッディノートは大人の男らしさを感じさせる。 これほどス洗練されたなセクシーな男から、望まれたのだと煜瑾はようやく意味の重さを認知する。 ドキドキしながら左手の小さな引き出しを開けると、そこには色様々な下着が小さくたたまれて並んでいて、煜瑾は慌てて引き出しを閉じた。 息を整え、右手の大きめの引き出しを開けると、そこには煜瑾が探していたニットのセーターやカーディガンがふんわりとたたまれて入っていた。 その2番目に見えたダークブラウンのバーバリーのカーディガンを取り出すと、一瞬迷ったものの、煜瑾はそれを身に付けた。 「あれ?」 華奢な煜瑾から見て、それほど大差ないと思っていた細身の文維だったが、その体に合っているはずのカーディガンは、煜瑾が着ると随分と肩の線が落ちてしまう。ちょうど彼氏の服を借りた少女のように、タプンと一回り大きく余ってしまうのだ。 全体の色合いはまとまったと思うのだが、文維の体のサイズが煜瑾には意外だった。 (文維って、見た目よりずっと逞しいんだ…) そう思った時、煜瑾のレジデンスで、
玄紀
(
げんき
)
と酔いつぶれた煜瑾を、文維が抱きかかえて寝室まで運んだという小敏の話を思い出した。 それまで何とも思わなかった文維の体が、急に生々しく感じられ、妙に落ち着かない煜瑾だった。
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