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第122話

「お前には分からないよ、小敏(しょうびん)包文維(ほう・ぶんい)は絶望をした顔を、両手で覆い隠すようにして、頭を抱えた。 「分かるよ。誰かを好きになる気持ちは同じだもの。煜瑾(いくきん)が、どんなに文維を好きかくらい、精神科医でないボクにだってわかるさ」  だが、自責の念に駆られる文維は、いつまでも顔を上げようとしない。 「本当に、煜瑾をこのまま帰してしまっていいの?煜瑾があんなに明るく元気になったのは、文維のおかげじゃないの?このまま煜瑾をお兄様や執事の下に帰らせたら、煜瑾はまた悲しそうな顔をした、寂しい子に戻ってしまうんじゃないの?」  煜瑾を心から心配する小敏の言葉でも、文維を動かすことは出来ない。 「引き留めないなら、せめて電話しなよ!逃げるなんて、文維らしくない!文維は追われるのに慣れ過ぎて、自分から追いかけることを忘れてるんじゃないの?」  小敏の言葉に文維はハッとした。 「煜瑾に嫌われたっていうなら、惨めなくらいに『嫌わないでくれ』って泣いてみればいい。このまま、2人の関係が上手くいかなくなったことを、煜瑾のせいにするつもりなら、ズルいよ、文維!」  辛辣な、それでいて正直な小敏の意見だった。それだけの経験を積み、愛することの喜びと同時に、悲しさを知る小敏ゆえの説得力があった。 「本気で煜瑾を好きなら、文維も煜瑾と同じくらいに純粋な気持ちでぶつからないとダメだよ」  打算的な自分を言い当てられたような気がして、文維は愕然とした。 (そうだ、このまま煜瑾との関係を終わらせてはいけない)  そう思った文維は寝室を飛び出し、リビングに置いたスマホに向かった。  寝室に取り残された小敏は、そのままゴロンとベッドに寝転がり、2人の恋の行方を思って、ニンマリした。  文維が半信半疑で煜瑾に電話を掛けると、意外なほどに簡単に煜瑾は電話に出てくれた。 「煜瑾。昨夜の事で、気を悪くしたのなら謝ります。それに、小敏のことは本当に誤解です。もう、私の事を嫌いになったのですか?」  文維なりに必死に言葉を紡ぐが、なぜか煜瑾に届いている気がしなかった。 「煜瑾?」  しばらく黙っていた煜瑾の声が、ようやく聞こえた。 「…違います。私は、まだあなたに夢中です。本当にこの先、あなた無しで生きていけるのか自信がありません。でも…」  言葉が続かない煜瑾の沈黙の向こうに、車の音がした。煜瑾はすでにタクシーを呼び、兄たちが待つ宝山(ほうざん)地区の邸宅に向かっているのだろう。 「でも、だからこそ、あなたの愛情を疑いながら生きて行くのはイヤなのです」  昨夜、自分が煜瑾の体を求めたこととはニュアンスが違うと、ようやく文維が気付いた。一体、煜瑾は何に失望し、文維から逃げようとしたのだろうか。文維には理解できなかった。

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