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第129話
ホッとした小敏 は、文維 を支えるようにして、リビングのソファへ異動した。肩を支えるようにして座らせると、改めて文維に確認をする。
「煜瓔 お兄さまには、『恋人じゃない』って信じてもらえないと、煜瑾 と引き離されちゃうってことなんだね?」
「以前から、唐煜瓔は、私が煜瑾に疚 しい視線を向けていると疑っていました。お兄さまの煜瑾への溺愛ぶりを思えば、私と煜瑾が同じ気持ちだと言うことなど信じられないでしょうし、許すはずがないでしょう。なので、本来は禁じ手である『恋人だと思わせる』治療をしているということにしました」
少しずつ落ち着いた文維は、深呼吸をし、脱力したようにゆったりとソファに身を任せた。
「なるほどね。それで、禁じ手とは言え『治療のために恋人のふり』をするってことなのか~。それで納得したよ」
信じていた通り、文維もまた煜瑾の想いを受け止め、彼自身もまた熱い想いを抱いていたと分かり、小敏も嬉しくなった。お兄さまを騙すためとはいえ、本当に手を出さずに我慢している文維は偉いと思う。
そんな小敏の視線を理解したのか、文維も薄く微笑んだ。
「それで煜瑾を救えるなら、私はどんな手段でも使いますよ」
その顔に、文維の本心である「私は煜瑾に夢中」と書いてあるような気がして、小敏ははしゃいでしまう。
「ボクに出来ることなら、なんでも手伝うよ。文維は大事な人だからね」
小敏はそう言って、慣れた様子で文維の首に腕を回し、楽しそうに頬に口づけた。
疲れ切った文維は、抵抗もせず、笑うことしか出来なかった。
「ああ、何とも心強いことだね」
その様子を、まさか煜瑾が見ていたとは、2人とも思いも寄らなかった。
***
「文維?」
ベッドで寝転がり、ダラダラしていた小敏の許 に戻った文維は、顔面蒼白で今にも倒れそうだった。
「な、何?どうしたの!」
驚いた小敏は、慌てて文維の体を支えながら、自分は起き上がり、文維をベッドに寝かせた。
「煜瑾と話したんでしょ?」
「話して…」
虚 ろに文維の口が動く。
「だから、煜瑾と話して、分かってもらえなかったの?」
もどかしく思う小敏は、思わず急かせるように言う。
「違います。私たちが話しているのを、煜瑾が聞いてしまい、誤解したのです」
「話してって…」
話し掛けて、口惜しさに文維はギュッと眉を寄せた。こんな苦し気な文維の表情を、小敏でさえ見たことは無い。
「『恋人の振りをして治療している』という言葉を耳にして誤解をしたようで…」
「そんな!」
小敏もまた、自分の注意が足りなかったことに気付いて心が騒ぐ。
「それに、さっき小敏がふざけて頬にキスしたことも、妙に深刻に受け止めているようで」
「えぇっ!じゃあボクのせいじゃん!ゴメン、ゴメンね、文維!ボク、すぐに煜瑾に謝らなきゃ」
小敏は慌ててスマホを取り出し、煜瑾に謝ろうとした。
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