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第130話

 今すぐにでも煜瑾(いくきん)に謝罪の電話をしようとした小敏(しょうびん)を、文維(ぶんい)は止めた。 「待ちなさい。今はまだ煜瑾も気持ちの整理が出来ていない。もう少し落ち着いてから話した方がいい」 「でも…」  煜瑾の事だけでなく、目の前で落ち込む文維が心配な小敏はオロオロしてしまう。 「大丈夫。ただの誤解なんだから、すぐに分かり合える」  文維はそう言って弱々しく笑った。けれど、それを文維自身が信じているようには見えない。 「そ、そうかな…」  仕方なくスマホを置いて、小敏は肩を落とした従兄(いとこ)に寄り添った。 「煜瑾に考える時間をあげましょう。少し考えれば、バカバカしい勘違いだと気付くはずです」 「う…うん」  小敏は、気落ちしながらも自分を励ましてくれる従兄が頼もしく、申し訳なくもあった。  大好きな従兄と親友の2人の幸せを、心から願う小敏は、自分に出来ることは無いかと考えこんだが、今は何もできそうになかった。仕方なく文維の肩を抱き、傍にいることを選んだ小敏だった。 *** 「お願いでございます、煜瑾坊ちゃま。一口でよろしいのでお食事を」  午前中に泣きながら戻った煜瑾だったが、夜になってもベッドに伏したままで、(ぼう)執事が運ぶ食事も手を付けようとしなかった。  家政婦やメイドたちも入れ替わり、立ち替わり食事の他、煜瑾の好きなデザートや飲み物を運ぶが、煜瑾は受け付けない。  最後には、これまでほとんど触れたことも無い天蓋の二重の(とばり)を下ろしてしまい、カーテンに触れることさえ許さなかった。 「そんなにお泣きになって、何も召し上がらずにおられると、お体に障ります。煜瑾坊ちゃまが、ご病気にでもなられたら、お兄さまもどれほどお心を痛められることか」 「……」  反応の無い煜瑾に、茅執事も心配が募る。このままでは本当に病気になってしまうのではないだろうか。 「煜瑾坊ちゃま、このままでは旦那様をこちらへお呼びしなければなりませんよ」 「イヤです!誰にも会いたくありません!」  ベッドの天蓋から下がる、豪華な金糸をふんだんに使った重いゴブラン織りの外側のカーテンを、茅執事はソッと開いた。 「やめて!」  内側の薄い紗のカーテンの向こうに、煜瑾が枕に顔を伏せたまま横になっているのが見える。 「坊ちゃまがご無事だと言うことを知るためにも、ここをこれだけ開けることをお許し下さるなら、旦那様はお呼びしません」 「…分かりました…」  巧みな茅執事の交渉に、煜瑾は仕方なく同意した。 「お食事も、お飲み物もこちらのテーブルに置いておきますので、必ず召し上がって下さい。お1人で召し上がるのがお寂しいようでしたら、真夜中でも私が参りますからお呼びくださいね」  煜瑾が気が気でない茅執事はクドクドと同じことを繰り返し、煜瑾の様子を窺うが、煜瑾からの反応は無かった。

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