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第131話
「文維 …、文維…」
1人になった煜瑾 は、心細さも相まって、恋しい文維を思って、また泣き出した。
包文維 という存在を手放して初めて、その大切さを実感した煜瑾だった。
「好きです…、好きなのです、文維…。あなたに、会いたい…」
けれど、文維に愛されていないと思い込んだ煜瑾には、もう一度文維に会うという勇気が出ない。ただ、愛しさばかりが募り、恋しくて、苦しくなる。
煜瑾自身、これほどに自分が文維と言う男を求めていたとは驚くほどだった。
(文維に会いたい…。文維に愛されたい…。文維が…、あの人の全てが欲しい…)
生れて初めて感じる、心からの欲望に煜瑾は戸惑う。
(文維が好き。文維が大好き…。だから…)
煜瑾はドキドキしながら自分の手で、自分の体に触れた。
(文維だけに…触れて欲しい…)
そのまま煜瑾は朝まで泣き続けた。
***
煜瑾が泣きながら文維のアパートから飛び出した日の午後から、煜瑾の電話が通じなくなった。着信拒否ではなく、電源が切られていて、何がどうなっているのか判らない状態だった。
煜瑾に連絡を取る手段として、残るのは、唐 家のお屋敷に直接電話をすることだったが、どう考えても、茅 執事が電話を取り次ぐはずがなかった。
包文維も、羽小敏も為す術がなく、ただ気を揉むばかりで数日が過ぎてしまった。
文維は相変わらず冷静で、きっと煜瑾のほうから連絡があると、小敏を安心させるために微笑んでいるが、その実、かなり精神的にダメージを受けていることを小敏は知っていた。
自分も落ち着かず、文維のことも心配だったため、小敏は毎日のように文維と夕食を共にするようにしていた。時には、煜瑾とは行ったことが無いレストランへ。そしてまたある時は文維の実家で。もしくは文維のアパートで、デリバリーで済ますこともあったが、なるべく小敏は文維を1人にするまいと気遣った。
煜瑾と連絡が取れなくなって、数日後のある日のことだった。
突然に小敏のスマホに電話が掛かって来た。相手を確認して、一瞬、小敏は眉を顰めるが、すぐに思い直した。
「やあ、玄紀 !久しぶり!お電話ありがとう」
「小敏?今日は随分とご機嫌がいいですね?」
ここのところ、冷ややかな対応が続いていた小敏が、久しぶりに優しくなって、嬉しさが隠せない申玄紀 だった。
「明日、上海に帰るのですが、一緒に夕食でもどうですか?」
「ん…じゃあ」
(文維も一緒に)、と言いかけて小敏は止めた。玄紀を利用することを思いついたからだ。
「じゃあ、時間と場所は玄紀が決めてよ」
「分かりました!後でメールしていいですか」
やっと2人きりで夕食に出掛ける約束をしたことが嬉しい玄紀は、張り切って小敏が喜ぶような店を予約しようと思った。
小敏が喜んでくれるのなら、何でもしたいと一途な玄紀はいつも思ってはいるのに、小敏はそれを受け入れてくれない。
それでも、やはり小敏を諦めきれない玄紀だった。
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