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第133話
食事も進み、コースも半分を過ぎた頃、小敏 はいよいよ本題に入った。
「ねえ、煜瑾 のこと、知ってる?」
「いいえ?何かあったんですか?」
今日の午後に上海に戻ったばかりの玄紀 は、まだ煜瑾の話は誰からも聞かされていなかった。
「病気、みたいなんだ」
悲しそうに小敏が言うと、玄紀はその切ない横顔にドキリとする。小敏は、男を惑わせる術を心得ている。それは良く承知している玄紀なのだが、それでも、小敏の表情一つ、仕草1つに心を掻き乱される思いがする。
「どこが悪いのですか?」
小敏は玄紀から視線を外し、黙って首を横に振った。
「誰にも言えないような、重篤な状態なのですか?」
さすがに玄紀も動揺する。唐煜瑾は、親同士の付き合いがあった関係で、小敏たちよりも以前からの幼馴染だ。煜瑾の方が1歳上だが誕生日が一日違いなので、小さい頃は一緒に誕生パーティーなども開いていた仲だった。
そんな幼馴染が重症だとは知らず、玄紀は本気で心配になった。
「入院しているのですか?」
玄紀が焦りを隠さず身を乗り出すと、小敏は自嘲的な笑みを浮かべ、力なく口を開いた。
「自宅に居るようだけど…。ボクと文維は、茅執事に嫌われているから、お見舞いにも行けないんだ…」
小敏の言葉に、玄紀はハッとした顔になった。
煜瑾のレジデンスに泊った日の翌朝、小敏は、茅執事が煜瑾を子供扱いし過ぎることに怒って、煜瑾を唆して遊びに連れ出したのだ。
「ボクらは、煜瑾を唆 す悪い子だって思われるけど、玄紀は違うよね」
どこか当てこすりな言い方をされ、玄紀はドキリとする。
「煜瑾の病状がどのくらいなのか、心配なのに何も分からないんだよね…」
そう言って力なく俯いた小敏だが、どこか誘惑的で艶めかしい。
「実は、それで…、玄紀に頼みがあるんだけど…」
玄紀はこの一言で、ずっと冷淡な態度だった小敏が、気安く食事の誘いを受けてくれた理由を理解した。
小敏は、決して玄紀と食事をしたかったわけではないのだ。それを痛感して、玄紀は悲しくなった。
それでも、こうして小敏に会え、頼りにされていると思うと、まだ浮ついてしまうくらいに、玄紀は小敏が好きだった。
「それで、どうしたらいいのですか?」
玄紀は箸を置き、背を伸ばし、きちんと小敏を見詰めて問いかけた。
それを見た小敏は、ニッコリと玄紀を魅了するような笑顔を浮かべた。
(ズルい…。小敏はいつだって、こんなキレイな笑顔で私を誤魔化してしまう)
不承不承な態度を隠さない玄紀を、気にする風でもなく、小敏は核心を伝えた。
「煜瑾のお見舞いに行って欲しいんだ。ボクからのお見舞いの品を持って、ね」
大好きな小敏の笑顔なのに、まともに見ることが出来ず、玄紀は黙って頷いた。
「ボクからだって、茅執事にバレないよう、お見舞いの品を煜瑾に直接、渡して欲しいんだ」
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