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第134話
食事を終え、口直しの抹茶アイスのフルーツ添えが出たが、玄紀 はもう食べる気も失せ、待ち構えていたような小敏 に譲った。
嬉しそうに、2つ目のアイスをペロリと片付け、小敏はホクホクした顔をしている。
「あ~美味しかった!玄紀のおかげだね。ありがとう」
嬉しそうな、明るく、素直な小敏の笑顔が、玄紀には眩しい。
出会った頃から、この明るさにずっと励まされて来た。それがある日、恋であると気付いた時には、小敏はもう、年上の包文維の物になっていた。
それでも、いつかは振り向いてもらえると信じている玄紀だが、そんな気持ちを知りながら、小敏はいつでも上手くあしらってしまう。
「ねえ、玄紀」
ボンヤリしていた玄紀に、急に声のトーンを落として小敏が話し掛けてきた。
「?」
「どうする?ボクからのお願いは以上だけど、不公平にならないように、玄紀のお願いも聞いてあげようか?」
そう言って玄紀を見詰める小敏は落ち着いていて、いつものからかう調子ではない。今回は、真剣に玄紀の希望を聞き入れるつもりらしい。
「え?」
「ココから、玄紀のご自慢のペントハウスまで近いんでしょ?夜景が素晴らしいんだって?」
それは、玄紀が夢にまで見た小敏からの誘惑だった。けれど、その眼を見て、玄紀はすぐに分かってしまう。
「今日は雨だから、ウチからの夜景も見る価値ないですよ」
玄紀のペントハウスは、上海で有名な外灘沿いの高層ビルの最上階で、外灘はもちろん、上海市内を一望できる最高の眺望を約束された高級マンションだった。
いつかそこへ小敏を招き、2人で過ごす夜を夢に見てきた玄紀である。
しかし、今夜はとてもそんな気持ちになれない。
小敏の気持ちが自分に無いのがハッキリしているのに、小敏を誘うことなど出来ないバカ正直な申玄紀だった。
「?」
煜瑾 が誤解したきっかけを作ってしまったという罪悪感を抱く小敏は、文維 と煜瑾のためなら、一度くらいは玄紀の想いを聞き届けようと決心していた。
それなのに、玄紀は小敏の計算付くの行動をどう思ったのか、その申し出を退けてきたのだ。
小敏は、自分に対する玄紀の想いが純粋すぎて、少し重いと苦しく感じた。
「玄紀…ボク…」
「さあ、ご自宅まで送りますね」
言いかけた小敏を牽制するように、玄紀はわざとらしい陽気な声を上げた。
「明日の朝、茅 執事に電話して、煜瑾へのお見舞いの日時を相談します。小敏からのお見舞いの品を受け取るのはそれからでいいですか?」
明るく、積極的に言って来る玄紀に、さすがに小敏も申し訳ないと思う。けれど、今はこれ以上何も言えることが無く、黙って頷いた。
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