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第140話

(私はまだ、包文維(ほう・ぶんい)が好きなのに…) 「煜瑾(いくきん)!」  泣いている煜瑾に気付き、玄紀(げんき)は慌てた。 「大丈夫ですか?」  秘めやかに、艶やかに泣き濡れる唐煜瑾の美しさに、玄紀は少しドキドキする。 「それほどに…、包文維のことが好きなのですね」  痛ましげに言う申玄紀に、煜瑾は泣き顔をこれ以上見せまいと、その美貌を背けてしまう。 「正直に言って、私は、煜瑾に包文維は相応しくないと思っていました」 「玄紀…」  自分に従順だった年下の幼馴染にまで否定され、煜瑾は傷付く。 「でも…」  玄紀はふとランチでの小敏の少し悲しそうな表情を思い浮かべた。  あれは、文維を失う悲しさではないのだ。  小敏が大好きな従兄と、大好きな親友が、これほど想い合っているのに、引き離されていることに胸を痛めているのだ、と玄紀はやっと理解した。  これまで、小敏を慕うがゆえに文維に反発して来た玄紀だったが、幼稚な自分の独りよがりだったことにようやく気付いた玄紀だった。  自分1人が後輩で、子供扱いされることにコンプレックスさえ感じていた玄紀だが、実際に、玄紀の気が付かないうちに、親友たちはすっかり先に進んでしまい、真実の愛に苦悩するほどに成長していたのだ。 「でも、煜瑾を幸せに出来るのが包文維しかいないのであれば、2人は結ばれるべきだと、私は思います」 「玄紀!…分かって、くれるのですか」  子供だと思っていた玄紀の言葉に、煜瑾は急に励まされる。 「『他真愛你』…。文維が煜瑾のことを愛していて、煜瑾が文維を愛しているなら、何の問題があるというのです」  そう言って玄紀は、明るい笑顔を煜瑾に見せ、大きく頷いた。 「何があったのか、詳しいことを私は知りません。でも、小敏が誤解だと言っていて、文維が煜瑾を本当に愛していると言っていて、煜瑾は、こんなに泣くほど文維を好きなのに、どうしてこんなところにいるのです?」 「え?」 「寝ている場合ではありませんよ、煜瑾。文維に会いに行くべきです」  急に頼もしくなった幼馴染に、煜瑾は戸惑いながらも嬉しさを隠せない。 「会いたい!私も文維に会いたいのです」  煜瑾はこの屋敷に帰って以来、初めてこの本心を自分以外の人間に打ち明けることが出来た。 「文維に笑われてもいい、私が思うように愛されなくてもいいのです。ただ、文維が好きだから、会いたいのです」  煜瑾は心からの望みを口に出し、玄紀に縋りついて大きな声で泣き出した。 「大丈夫…。心配は無用です。必ず文維に会えます。会えるように、私と小敏が何とかします。…だから…」  胸の中で泣く煜瑾の体の薄さに玄紀は不安になる。 「煜瑾はまず、体を元に戻しましょう。こんなに弱った姿で、文維に会うわけにはいかないでしょう?」  玄紀がそう励ますと、煜瑾は玄紀の胸から身を起こし、弱々しく、それでも笑顔で首を縦に振った。

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