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第143話
涙で目を潤ませる小敏 に同調して、玄紀 も声を上げる。
「そうですよ。煜瑾 は、文維 に愛されていない、って思って、病気になったのです。それが誤解なら、文維がちゃんと煜瑾を愛しているのだと教えてあげないと!」
そんな単純な理屈くらいは、包文維もすでに理解している。けれど、それだけで唐煜瑾を幸せに出来るとは、どうしても思えない。
「よし!まずは2人を会わせよう!それしかない」
逡巡する文維を余所に、小敏はそう言うと勢いよく立ち上がった。
「そうですよ!ちゃんと目を見て話し合うことが、今は一番必要なことだと、私も思います」
いつも自分の事ばかり考えていた「弟」のはずが、いつの間にか煜瑾の切ない想いに共感できるほど成長していることに、文維も驚く。けれどそれは決して悪い事では無く、申玄紀もまた、思い通りにいかない大人の恋に悩んでいるのだと思う。
「しかし、無茶なことをして、これ以上煜瓔 お兄さまや茅 執事に、煜瑾が厳しく管理されるようなことになっては困ります」
文維はいつになく真剣で、難しい顔つきで単純な後輩たちを止めようとした。
けれど、そんな取り繕った建て前で、純粋で情熱的な小敏を止められるはずがない。
「困るかどうかは、文維が決めることじゃない。煜瑾が決めることだよ。お兄さまや執事に何を言われようと、何をされようと、それでも文維を選ぶ、って煜瑾が決めたなら、それを応援するのが親友の勤めだから」
「小敏、あまり事を大きくしてはいけません!」
普段は素直でカワイイだけのおっとりキャラを演じているが、実は正義感が強く、熱血的な羽小敏は、考えるよりも先に行動したいタイプだ。それゆえの後始末を、長年引き受けてきた文維は、悪い予感しかしない。慌てて止めようとするが、もはや小敏は聞く耳を持たなかった。
「体面や外聞なんて気にしてるようなら、文維は、もう煜瑾を諦めてよ!我が身大事で、愛する人さえ守れない人に煜瑾は渡せない!」
きっぱりと小敏が言い放つと、さすがの文維も感情を抑えようとしつつも鋭い眼差しになる。
「私は、決して『我が身大事』で言っているのではない」
これでもまだ、冷静な大人ぶろうとする文維に、小敏は侮蔑的な笑いを口元に浮かべた。
「言い訳するなよ。煜瑾の為だって言うつもりだろうけど、そんなことを煜瑾が望んでると思っているなら、やっぱり文維には、唐煜瑾を愛する資格はない」
余りにも決然と言い切られて、さすがの包文維も感情を害したようだ。 奔放な従弟を睨みつけ、怒りのこもった低い声で振り絞るように言った。
「小敏、お前にそこまで言う権利は…」
だが文維の怒りも物ともせず、むしろさらに軽蔑するように小敏は大声で言い放った。
「違うね!要は、誰が煜瑾を幸せに出来るかってことなんだ。文維にそれが出来ないなら、煜瑾はボクがもらう!」
「しょ、小敏!」
突然の略奪宣言に、驚いたのは隣で呆然としていた申玄紀だ。
しかし、小敏と文維は、これまで見たことが無いほど真剣に睨み合い、本当に憎しみ合っているかのように、玄紀には見えた。
「と、とにかく、落ち着きましょう」
そう言って玄紀は、立っている小敏の服を引っ張り、取り敢えず自分の隣に座らせた。
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