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第144話

 険悪な従兄弟(いとこ)同士の間にあって、申玄紀(しん・げんき)は内心オロオロしていたが、そんな様子を見せないように、まずは静かに出されたお茶を飲んだ。  しばらくして、包文維(ほう・ぶんい)羽小敏(う・しょうびん)も、睨み合いながらも向かい合わせに座って、ティーカップに手を伸ばした。  この上なく居心地の悪い雰囲気の中、お茶を飲み、玄紀は口を開いた。 「とにかく、今は私が直接会いに行くほかは、煜瑾(いくきん)との連絡の取りようもありません。きっと煜瑾は不安でいっぱいだと思いますよ」  すでにアールグレイのミルクティーは冷めていたのか、小敏はゴクゴクと一気に飲み干して、少し落ち着いたようだった。 「そこはボクに任せて。SIMフリーの使い捨て携帯を用意したから、これを玄紀から煜瑾に渡してよ」 「小敏!そんなものが茅執事に見つかったら!」  煜瑾のことを心配した文維が止めようとするが、小敏は冷ややかに答えた。 「煜瑾だってそんなこと分かってる。煜瑾の事、バカだとでも思ってるの?この携帯が大事だと思えば、煜瑾だって必死に隠すし、ボクたちの事が信じられずに、携帯が不要だと思えば、玄紀から受け取ることだってしないよ」  小敏が言うことは正論だった。  それを指摘され、理論派のはずの文維が動揺する。 「ボクと煜瑾は、高校3年間だけでなく、大学でも一緒だった。だから、煜瑾が誰より聡明なことは、よく知っている。ボクは煜瑾を信じているし、きっと煜瑾だってボクのことを信じてくれるって自信がある」  小敏が文維を見据える目は確信に満ちていて、キラキラと輝いている。  文維は、この純粋で揺るぎのない視線を、ほんの少し、憎らしいと思った。 「煜瑾のことを信じられない文維には分からないだろうけどね」  皮肉たっぷりに言われて、厳しい顔をしていた文維がさらに口元を歪めた。こんなに感情を見せた包文維を、申玄紀は初めて見た。 「私は、煜瑾を信じていないのではなく、煜瑾に迷惑を掛けたくないだけです」  怒りさえ感じさせる、低く抑えた声で文維が言った。 「ねえ、文維?迷惑を掛けたくないって思うほど、本当に煜瑾を大事に思っているんでしょう?」 「……」  反発的だった小敏が、がらりと態度を変えた。どうやら、文維のことをよくよく承知している小敏は、わざと文維を挑発して、本音を引き出そうとしたらしい。 「文維と会えるなら…、それから誤解を解いて互いに想い合ってるって分かれば、煜瑾は幸せだよ。それだけで、いいんだ。煜瑾はそれ以上、望んでなんていない」  冷静な自分を取り戻した文維は、じっと小敏を見詰めた。 「私も…、私も同じだ。私も、煜瑾の誤解を解きたい…」  絞り出すような声で本心を口にした文維に、小敏はいつもの明るい笑顔を浮かべた。 「なら、今は余計なことを考えずに、ボクらに任せてよ。必ず、文維と煜瑾を会わせてあげる。文維は、2人が幸せになることだけを考えてよ」 「小敏…」  楽観的な従弟を、半ば呆れて、半ば羨ましく、文維は見た。 「私だって、煜瑾の為なら協力します」  頼もしい玄紀の言葉も続く。  文維は2人の後輩の想いに、今はただ感謝するだけだった。

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