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第146話
「本当に、スパイのようですね。小敏 はよくそんな事に詳しいのですね」
「そりゃあ、小敏のお父様の羽 将軍は、軍の情報機関も掌握しているといわれていますからね」
「そうなのですか。では本物のスパイなのですね」
2人が無邪気な会話に興じていたその時、ドアがノックされ、茅 執事がサンドイッチをメインにした昼食を運んできた。
2人は共有した秘密を思い、クスクスと顔見合わせて笑った。
「楽しそうですね、お2人とも」
テーブルの上に真っ白なテーブルクロスを掛け、茅執事は綺麗に大皿に並べたサンドイッチの他に、上等な赤身肉の自家製ローストビーフやスコッチエッグ、厚切りのフレンチフライなど、高級レストランのような料理が並べた。
「今、玄紀 とスパイ映画の話をしていたのですよ」
「ああ、あの有名な?」
「はい」
2人は屈託なく返事をして、またも顔を見合わせてはクスクスと笑い続けた。
「こちらのお花も玄紀坊ちゃまからのお見舞いですよ」
有名なヨーロッパの磁器のアンティークに飾られた目にも鮮やかなチューリップに、煜瑾 も嬉しそうに微笑んだ。
「では、ごゆっくりとご昼食をお楽しみ下さいませ」
茅執事が去ると、玄紀は待ちかねたようにチューリップを指さした。
「これも小敏が用意したけど、文維 からのメッセージなんですよ」
「文維の?」
秘密を知る玄紀は楽しそうにウキウキしているが、煜瑾はその名に、切ない瞳で目元を染める。
「赤いチューリップの花言葉は『永遠の愛』、紫は『不滅の愛』そして、白いチューリップの花言葉は…」
もったいぶって、玄紀は煜瑾の顔を覗き込んだ。
「もう…、早く言って下さい」
焦れた煜瑾が玄紀の腕を掴んだ。
「白いチューリップの花言葉は、『許して下さい』って…」
幼稚な弟だと思っていた玄紀だったのに、いつの間にか、煜瑾を労わるような優しい目をしていた。それが嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちに揺れる煜瑾だった。
(許して…下さい…。文維が…、そんな…)
愛しい相手を想って、憂いのある美貌を伏せる煜瑾に、なぜか嬉しくなった玄紀は、持参したサンドイッチを手に取り、大きな口を開いて美味しそうに食べ始めた。
「早く元気になって下さいね、煜瑾。それから、スマホは普段は電源を切っておくようにって、小敏が。チャットも1日1回のチェックでいいって。やり取りしたメッセージを消すの、忘れてはいけませんよ」
「はい」
「これは…、充電器。これも見つかったらダメですよ」
玄紀に言われ、煜瑾は立ち上がって、いそいそと部屋の隅にあるライティングデスクに向かった。
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